03. エルトニアという国
俺たちは今、とある町の悪徳領主に拐われた女の子を助け出し、報酬を得ていた。
領主から実家の財産を奪われ、生きるために身売りを迫られていたという気の毒な娘には、当面家族と暮らせるだけの資金を渡して送り届けた。
財宝は諸事情により町で換金出来ないため、村へ寄付する。硬貨をメインに集め、計量オーバーなところで残りも全て村に差し出し、手に持てる範囲の量を根城にしている家に持ち帰るというところだ。
テレポートとか、そういう便利な魔法が無いから、地味にそれなりの重量を運ばないといけないんだよな。
「計量オーバー……って、潮干狩りじゃないんだから、往復すればいいじゃないか」
「派手にやると足がつくからな、これ以上は持ち帰れないし」
翡翠があれこれ物識りで話せるのは、こちらの世界に来た時に、俺の人生経験の"知識や記憶"に関するところを共有したからだと言っていた。
それにしては、俺よりしっかりしてるような気がするんだよな……。
金貨の入った麻袋を4つ並べて、村人からお礼にいただいた昼食の鶏肉と野菜のバゲットサンドにかじりついていた。
「うまっ、うまーっ!」
「律ってさ、お金稼ぎたがるけど守銭奴ではないよね、ほとんど村に寄付しちゃってるし」
「適度でいいんだよ」
金貨の上に貰ったジャガイモをカモフラージュに乗せて、後は帰るだけた。
「それにしても、勿体無いことしちゃったかもなぁ」
助けた女の子から、この村で一緒に暮らしませんか? なんて言われると、それはそれで有りかもしれないなと思ったりした。
こんな
けれど、俺はこれでも失恋直後の傷が癒えていない状態なので、新しい恋はまだいいかな……と思っていた。
とは言っても、お友達になっておけば良かったかな、と思ってしまうのが男心で。
「今まで自分からアプローチして始まった恋が破局ばかりだったことを思えば、相手から選ばれて始まるのは有りかな? なんて思ったりするよな」
「……律はぜんぜん解ってないよ、その恋の終わり、自分に問題があったと思ってる?」
翡翠は、いっちょ前にため息をついて見せた。
「お前の短い猫生で何がわかるんだよ?」
「律よりはね」
「な、何ィ……?」
こいつ、俺のこと馬鹿にしてないか?
「律はね、ヘンタイほいほいというか、危ない奴に狙われやすいんだよ、気をつけた方がいいよ」
「普通の恋愛してきたつもりだけどな」
「別れた原因解ってないよね? 全て第三者の仕業とか、有り得る」
「……どういう意味だ?」
確かに、何で? ってことは多かったな。俺に原因があって、それが何か解れば直すのに。気付けばいつも修羅場だった気がする。
「大丈夫だよ、律、危ない奴は僕がちゃんと教えてあげるから、僕がいいよ、って認めた相手と付き合ってみなよ」
「余計なお世話だ!」
「じゃあさ、さっきの領主のヤバさに気付けた? あいつ、村娘逃がされた後、律のこと見て舌なめずりしてたよ、むしろ律に狙いを定め直したと言っていい」
「俺と奴に会話は一切無かったぞ」
一瞬で叩きのめしたからな。
「目だよ、目! わっかんないかなー、腹立つなーもー!」
何が心配事なのかはわからないが、1つだけ確実なことは言ってやる。
「いいか、お前を守るのは俺だよ」
「もう……」
その慈しむような眼差しに、翡翠は今度こそ君を守ると決めたことを、律は知らない。
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