天を穿つ魔法師は戦いの中で

佐藤 薫

プロローグ 天を穿つ若人は嘆きの晴天を見る

 晴天が嫌いだ。澄み切った空は陽気な空気感を漂わせこの世界をあざ笑うかのうに急激に顔色を変え、世界の顔色を窺っては態度を変える。その中でも晴天は一番澄んでいて一番性格が悪い。この焦土と化した戦場には晴天は悪でしかなく、見上げる空など必要もないほどに恐怖の対象でもある。いつ落ちてくるか分からない空爆の恐怖に耐え、毎日足掻き、苦しむのは正直もう止めたい。がしかし、この世から居なくなる選択は取れない自分が何とも情けなく、泣きたいが涙が一滴も出無いのも確かだ。見たこともない攻撃を受けることを知っていたら志願兵などならず後方配置を願って士官学校にでも行っておけばよかったと願っても現実は無常で命は儚い。硝煙と銃声と轟音が鳴るこの戦場に夢や後悔は一番必要無いとここ数日で悟った。昨日まで嫌、今日までで何人死んだだろうか…そう考えるだけで明日は我が身だと体の震えが止まらない。昨夜から始まった帝国軍の一斉攻撃はまるで大人と子供と言わんばかりな圧倒的な攻勢、帝国軍完全勝利で今し方勝負は決した。


澄み切った空は陽気な空気感を漂わせこの世界をあざ笑うかのように急激に顔色を変え、世界の顔色を窺っては態度を変える。その中でも晴天は一番澄んでいて一番性格が悪い。この焦土と化した戦場には晴天は悪でしかなく、見上げる空など必要もないほどに恐怖の対象でもある。いつ落ちてくるか分からない空爆の恐怖に耐え、毎日足掻き、苦しむのは正直もう止めたい。がしかし、この世から居なくなる選択は取れない自分が何とも情けなく、泣きたいが涙が一滴も出無いのも確かだ。見たこともない攻撃を受けることを知っていたら志願兵などならず後方配置を願って士官学校にでも行っておけばよかったと願っても現実は無常で命は儚い。硝煙と銃声と轟音が鳴るこの戦場に夢や後悔は一番必要無いとここ数日で悟った。昨日まで嫌、今日までで何人死んだだろうか…そう考えるだけで明日は我が身だと体の震えが止まらない。昨夜から始まった帝国軍の一斉攻撃はまるで大人と子供と言わんばかりな圧倒的な攻勢、帝国軍完全勝利で今し方、幕を閉じた。土埃と硝煙の匂いが抜けない負け組の戦場には敵軍や自軍が落としていった砲弾、実弾痕があちらこちらに散乱。また、参戦し自らの命をなげうって戦って散っていった戦士たちの骸がそこら中にあり、流した血が固まり砂地の色が変色している。その骸の山の中に彼はいた。敵の行軍がどんどん進んでくるかと思えばそんなこともなく、あらかたの兵士を新型兵器で只の肉塊に変えた後、退却していった。そんな戦場で彼はふと、心の揺らぎを感じた。こんな荒廃し、圧倒的戦力を目の前にし絶望し其れでも起こった心の揺らぎだった。


「なんだよそれ…人間で実験ってか。何処までもバカにしやがって…」


凄い口惜しさ、それと同時に情けなさが感情全てを支配した。彼ら帝国は常軌を逸している。人間をなんとでも思っていないのを肌で感じた。所詮我々は只の実験道具でしかないのだと。そんな時、帝国兵士が道楽で骸の山に放った小銃が隠れていた彼の肩に命中した。彼の体は痛みの感情を表に出す余裕がなくなるほど疲弊していたが痛みが無いわけではない。思わず出かかった声を殺しその場で息を殺した。

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退却途中の帝国軍がいなくなるのを何時間待っただろうか。その間、先程の傷の止血をしていたおかげか出血はほんの少量だった。何とかその骸の山から抜け出し、ふと傷んだ肩を見ると先まで体内で抱えていたはずの真っ赤な液体が彼の肩を大きく包み込み、ほんの数時間の悪夢の記憶がよみがえる


「くっ、ちきしょう...なんだよあれ...俺の仲間を返せよ...」


頬をつたった小雨はすぐに大粒に変わり地面の砂地を固めた。帝国兵士が去った後の戦場には何も残らないとよく噂では聞いていたが一縷の希望すらも無いこの只広い平原に残ったものは、ほんの数時間前まで人間だったものと後悔しかなかった。彼は数日間の戦闘で軍支給の戦闘非常食も底をとっくに底を突いていた。


「神よ、我々はどこで道を間違えてしまったのでしょう...」

枯れるようなか細い声で呟いた。


「ったく、熱いなこの平原は。」

遠くの方から話し声が聞こえる。段々と近づいて来る話し声と足音はこの平原では恐怖の対象だ。


「大体、こんな真夏日、晴天に『白甲冑』じゃなくてもいいじゃねえか、陣」

野蛮そうな声の問いかけにもう一人が答える。


「これは任務だ。偵察が主だが戦闘許可が下りている以上、戦闘装備必着用だ。」

ほかにも近づいてきた彼らは『白甲冑』に身を包み顔は見えない。だが、一般兵士にも分る異質なオーラが漂っているかの様な戦場での立ち振る舞合いはまさに、神の使い、いや死神の使いかもしれない。


「おい陣、コイツ生きてんぞ。」

死体の山の中を指さして生きている兵士を引っ張り出し手当てを開始した。


「ほかにも生きてる奴らいるかもしれない。手あたり次第手当てしていく。この方面軍の司令部は壊滅していたから援軍を要請する」


そうして展開した小型の無人ドローンを跳ばした。

「君...たちは...何者だ...」


彼らはその質問に一度顔を見合わせ一人が数秒間の沈黙の後口を開いた。

「我々は極東皇国特別連隊第十一分隊。通称【白霧】だ。」

男たちはそう答えると反対方向へと歩いていった。


その3日後、帝国軍小隊約1000名ほどが姿を消し1週間後に3名だけ帝都へと帰還した。彼らの証言には行き違いや、色々異なる点があるが一貫してこう言ったと云う。


「白い死神を見た。」と...

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天を穿つ魔法師は戦いの中で 佐藤 薫 @kaoru_2001

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