多分追放されたら最強だけど、ホワイトパーティーなので真面目に頑張ります
ふぐぅ
第1話 死は突然に訪れる
走馬灯は見えなかった。
東雲大輝の瞳に映ったのは、目障りなほど眩い月灯り。宙を舞い、地面に叩きつけられた体は果実が潰れるような音と共に血と肉を撒き散らす。痛みはない。叫んだところで無駄だと体は認めたようだ。2トントラックの脅威はDNAに刻まれているらしい。去りゆく鋼鉄の荷台を背に心は泣き始める。
つまらない人生だった。自分が誇らしかったのは家で親に甘やかされていた時。椅子の脚を頼りに立っただけで二人の男女はまるで月面に一歩を踏みしめたかのように狂喜し、その日だけでメモリカードの容量を使い果たした。東雲に当時の記憶はない。だが、なんとなく自分が世界の中心にいたことは覚えている。笑い声の絶えない家は居心地が良く、ずっとお湯に浸かっているようだった。
浴槽から引きずり出されたのは学校に通い始めた時だ。外の世界では自分が宝石にはなれないと否が応でも思い知らされる。自分が覚えていない漢字を誰かはぺらぺらと話し、理解できない数字をすらすらと書いた。外に出れば、自分よりも大きい子どもが、信じられないほど軽やかに動いていた。なぜ自分は同じようにできない? 現実から目を背けるように東雲はテレビゲームに熱中した。だが、仮想の世界ですら彼は輝かせてくれなかった。コントローラを必死に叩いても操作キャラクターが動けずに死んでいく。初心者の集まりを抜ければすぐにそんな目に合う。言葉にできない苛立ちと焦りを抱いて、常に誰かの下で生きていた。彼は己の人生をそう総括する。
東雲はゆっくりと首を動かす。それより下は既に動かない。手足の感覚は既に消えていた。怒りを覚えても、地団駄を踏んだり、拳を握りしめたり、肩をすくめることはできない。口にはどろりとした血が広がって、何も言えなかった。だから、彼は視界の端に映ったものを見て静かに息を吐いた。抜けた空気を体が求めることはない。煙が上って消えていくように、意識が薄れていく。最期まで無駄か。この世への捨て台詞を心の中で吐き捨て、東雲はゆっくりと目を閉じる。
19歳の少年はそうしてこの世を去った。そして、異世界への扉が開かれる。
「ようこそ、選ばれし魂よ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます