女子高生2人は田舎暮らしで満たされたい
カイン・フォーター
第1話 山間の女の子
私がその街を訪れたのは、ほんのくだらない反抗心からだった。
なんとなく高校を選び、なんとなく生きていた私は…人生を惰性で過ごしていた。
でもそれでいいと思う。
高校生なんてそんな物。
未来なんて想像できないし、所詮お勉強と社会人の真似事しかやれない、けれど最も自由な時期。
その自由を謳歌したくて…ある日電車を反対方向に乗った。
知らない景色、知らない駅名、知らない路線名。
直ぐ側に、数歩進めばいつだって行けたはずの路線の名前すら知らない、未熟で無知な高校生。
そんな私は…ただ流れていく田舎の景色に目を向けていたせいで、気がつけば人があまり居ない状態になっていた。
通勤ラッシュの時間帯に田舎の奥の駅で降り、見知らぬ制服の人が珍しいのかホームで電車を待つ大人達に奇異の目を向けられながら改札を抜ける。
「こんな改札、初めて見た」
かろうじてカードが使えるが……改札として機能しているか怪しい改札。
何故なら普通は柵でも付けて通れなくするところを全くの無防備。
いくらでも横を抜けられる構造。
こんなので本当に良いのかと思いつつ、私は駅を出て街の景色を見た。
…驚くほど何もない。
駅前だと言うのにコンビニも飲食店もない。
あるのは…駐車場と駐輪場と何故か床屋。
あとは…全て閉店したお店だ。
昔はもっと活気があったのかも知れない。
「………」
目的地はない。
静かで…駅のアナウンスが信じられないほど大きく聞こえる駅前を離れ、ただ歩く。
通勤時間帯ゆえに人通りはあるが…私がいつも通る道を考えれば、人は居ないも同然。
異様に静かな駅周辺は住宅街で、新しめな建物と趣のある古い建物が混在している。
見たこと無い政治家の選挙ポスターが貼られた、屋根の付いた木製の塀を持つ家の横を通り過ぎ、水草の生えた綺麗な川――と言うか水路に沿って歩き…気が付くとここが何処だか分からなくなった。
「………」
でも今更引くに引けない。
変に帰ろうとして歩き回れば余計に迷うかも知れない。
だから…私はひたすら進む事にした。
歩き続ければ、いずれ誰かに会えるだろうと。
その時に駅まで案内してもらえば良い。
そう思って立ち止まったり引き返すのではなく、先へ進む事にした。
私は田舎を舐めていた。
まさかこんなにも人に出会わないとは思わなかった。
家はあるのに人は居ない、生活感はあるのに人が居ない。
まるで私を避けているみたいだ。
気が付けば坂道ばかりで、すぐそこに山が見える。
そんな所にまで…私は来てしまった。
不思議と焦りはしなかった。
これまでの人生、一度だってどうにもならなかった経験は無い。
いつかは最終的になんとかなった。
だからきっと…どうにかなるんだと心では思っていて、それが身体にも現れてただ先へ進む。
そんな私の歩みを止めさせたのは……自転車を押しながら下ってきた、制服姿の女子。
おそらく高校生で、私と同い年くらいだろうか。
見たこと無い制服。
私にとってそれは当然だが、この田舎に住んでいるであろう彼女にとって私は異様な存在に映ったはず。
……なんてことを考えられるほど、私は頭に余裕がなかった。
「可愛い……」
「えっ…」
口から漏れるように呟いた言葉が異様に響く。
彼女にも聞かれてしまった。
その事に気付いて顔を赤くし、訂正しようとするが…それより先に彼女が口を開いた。
「ありがとう。あなたも可愛いよ」
優しい笑顔。
優しい言葉。
しかし私にはわかる。
それが空っぽだって事。
何故なら…私がそうだから。
「可愛いよ、か…凄く久し振りにそんな事言われた気がする」
「そうなんだ……みんな見る目無いね。こんなに可愛いのに」
「あなたのセンスが良いんだよ」
初対面だけど、楽しく談笑する。
彼女もきっと、私の空っぽに気付いただろう。
だから…分かり合える気がした。
気が付くと2人並んで歩き、彼女の案内で山奥の川にやって来ていた。
彼女の名前は『佐々木
珍しい名前だ。
私の『梅木
ホミも私も似たような境遇で、同じ惰性で生きる高校2年生。
不意に全てがどうでも良くなると、風船の空気のようにいつの間にか消えてしまうような、儚い命の十六歳。
いっそ2人でこの川の深みに……なんて考えた私の手を引いて、ホミは川へ入る。
それに続いて私も川に足を踏み入れた。
氷水のように冷たい山の清流の中を歩き、大きな岩の陰にやってくると……
「んんっ――!?」
私はそこで、ファーストキスを奪われた。
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