闇夜を照らす太陽は

酒本ゆき

プロローグ

 どうせ私のことなんか誰も愛さない。

 私は本気でそう思い込んでいるし、実際そうだった。

 声をかけてくる男性は、みんな身体目当てのヤリモクだし、近寄ってくる女性はみんな私を引き立て役やサンドバック代わりにしている。

 でも、私には拒否権なんか存在しない。だから、私は簡単に股を開くし、周りに笑われながらヘラヘラピエロを演じるのだ。

 こんな自分の意思のない私だけど、昔はもっと夢見がちでこんな私でも愛してくれる王子様が存在していると思っていた。

 そんな王子様みたいな人がいた。でも、結局は都合のいい女。

 相手のために身を削りながらバイトを掛け持ちし、お金を彼が望むだけ渡した。

 その度に彼は、私を抱きしめながら


「ありがとう。愛しているよ」


 単純だった私は、その言葉を本気で信じていた。本当に馬鹿らしいことだ。

 そんな王子様との夢から覚めたのは、本当に単純な理由だった。

 その日は早めに仕事が終わり、彼と住んでいる部屋に戻るとふと聞こえてきた。


「いや、まぁじであいつ扱いやすいわぁ〜。いい金づる」


 そんな言葉が私の鼓膜をグワングワンと揺らす。頭が真っ白に染まり、ハッと気づいた時には、私は彼を家から追い出していた。

 記憶が曖昧だが、追い出す際に私は彼に10万円ほど握らせていた。そうしないと出て行かないと彼が喚き散らしていたことがふと頭をよぎった。

 シンっとした部屋。涙が出るかと思っていたが、意外と出てこなくて変わりに乾いたため息が出る。

 心のどこかでは理解していたのかもしれない。彼に本当の意味で愛されていなかったことを。


「あーあ……、やっぱり私なんか誰も愛してくれないんだ」


 口から思わずこぼれた言葉に、さっきまでは出てこなかった涙が溢れた。

 愛されたい。ただ愛されたい。

 虚しさから逃げるように、私はセフレにLINEを一通送った。


『今から会えないかな?』


 私のその連絡にセフレは可愛らしいスタンプでOKとだけ返事を返してきた。

 家から近い適当なラブホを予約し、その住所をセフレに送る。

 軽くシャワーを済ませ、化粧をし私は家を出た。

 どうせ、こんな風に私は終わっていくのだろう。さっさと若いうちに死んでしまいたいなと考えながら、私はホテルに向かった。

 

 *


「なぁ、俺ら付き合わねぇ?」


 やることやってタバコを吸っていたセフレが、私に向かってそう声をかける。

 こいつも私を都合のいい女にしたいのだろう。今までも何回かセフレから同じような言葉をかけられたことがあったが、みんな揃ってこう言って私から離れていく。


「なんかお前って愛が重い。うざい」


 どうせこいつもそう言って離れるくせに。なんだか腹が立って私は「いや」と短く答えた。


「えー、なんでだよぉ! 俺ら身体の相性もいいし良くね?」


 しつこく言ってくるセフレ。私は少し彼を睨みつけた。


「だから何? それだったら今のままでもいいじゃない」


 セフレは何か考えるようなそぶりを見せる。そして、少し恥ずかしげにこう言った。


「あー……、その、あれだ。好きになっちまったんよな……」


『好き』という言葉に、私は動きを止めた。好き? 私を? そんなわけない。

 絶対あり得ないと私は思った。きっと断られたから仕方なくその言葉を出したに過ぎない。

 私はセフレに聞こえるようにわざとらしくため息を吐く。


「へー。じゃあ、アンタのこと好きにさせなよ。そしたら、付き合ってあげる」


「! わかった! ぜってぇ好きにさせるよ!「その代わり」んぇ?」


 言葉を被せ、私はセフレにこう言い放つ。

「私が好きになるまでは、SEXはしないから」

 こういえば引き下がる、そう思い私は強気な態度でセフレを睨んだ。


「……わかった。俺、頑張るから」


 さっきまで睨んでいたが、驚きで目を見開いてしまった。これを言われて引き下がらない男性は初めてだったから。

 セフレは気合を入れた様子でにっこりと笑みを浮かべている。

 これからどうしたものか……と考えながら、私はさっさとセフレに別れを告げて家に帰った。

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