三題噺
火之元 ノヒト
猿、謎、寝室
昔に書いたものが出てきたため、投稿してみました。
温泉宿の噂
とある田舎の温泉宿に猿にまつわる噂がある。
この温泉宿の温泉の隣の部屋に泊まると、猿がやってきて大切なものを奪っていく、というものだ。
現在、私はその噂を聞きつけて例の部屋に泊まりに来ている。
ここに来て既に二泊したのだが、未だに何の音沙汰も無く、優雅な一人旅を満喫している。
初日に、宿の女将に噂について聞いてみると、私のように泊りに来る人は多いが、噂にあるようなことは一度たりとも起きていないと言うのだ。
残念なことこの上ない。
だがもしかすると、と思い泊まってみたものの、期待に胸膨らます私を嘲笑うように、やはり何も起こらない。
しかし、さすがにこれ以上滞在するわけにもいかない。やり残してきた仕事は山の様にある。
仕方が無い。少し休んで帰ろう。
そう決意し、少ない荷物の整理を終えると、持参のノートパソコンで記事の編集作業を始める。
……やけに風が強い。障子が揺れて集中力が切れそうだ。いや、切れた。
一度意識してしまったのが運の尽き、もう集中は戻りそうに無い。
ふう……そうだ。帰る前に温泉に浸かるとしよう。
服を脱ぎ、湯に浸かる。この温泉に浸かるとみるみる内に疲れが取れるのが分かる。まさに秘湯といった感じだ。仕事と関係無く、また来ようと本気で思う。
…………ん? 湯気の奥に何かの影がみえる。誰か入っていたのか? 確か私
以外には客は居ないと言っていたのだが……今日来たのだろうか。
旅気分だからだろうか、普段なら絶対にしないが、私はその人影に声を掛けた。
「おはようございます 一人旅ですか?」
…………返事は無い。そりゃそうだ、気持ち良く温泉に浸かっているところに突然変な奴が話し掛けてきたのだ。不快に決まっている。
次の瞬間、私の身体から一瞬にして、温泉の温度を忘れるほどの大量の冷や汗が零れ落ちた。影がこちらに物凄い速さで向かって来たのだ。
「す、すいません! 水を差したのは本当に申し訳無いと思っ……」
湯気を掻き分け、面前に現れたその姿に、私は思わず言葉を失くした。
猿だ。私の胸ほどまである大きな猿がそこにいたのだ。
私はすぐさま脱衣所へ走った。そこでとった行動は私にとっても意外なものだった。私は逃げるのでは無くカメラを手に取り、猿の元へ戻ったのだ。
そして撮った。撮って撮って撮りまくった。猿が危害を加えてくる、などという考えは微塵もよぎらなかった。
私はこれ程までに仕事に情熱を持っていたのか。知らなかった。
すると、フラッシュに驚いたのか、猿は宿の中へと逃げていった。
私はそれを追った。一心不乱だった。
宿内へ入る、猿の姿は見当たらない。
もしかしたらと思い、自分の寝室へと入る。
その瞬間、大きな悲鳴があがった。
部屋には、朝食を持ってきた女将がいた。何かあったのかと聞くと、女将は何も答えず、部屋を出ていってしまった。
それからのことはあまり覚えていない。部屋で猿を探していると、やけにガタイのいい大人の男が数人来た。私は手を引かれ宿から連れ出された。
やはりあの猿が何かして、避難勧告が出たのかと思い、その男達に聞いても、訳の分からない事ばかり言い、話にならない。
これにて、猿の謎を追っている最中に起こった、私の奇妙な体験についての話を終える。
追記
私は今、白い部屋のベッドの上でこの記事を書いている。
これは私の体験談で、完全なノンフィクションである。
これは私の作品史上、最高傑作だと自負している。これを読んで、私と私の作品に興味を持って頂けたら光栄だ。
三題噺 火之元 ノヒト @tata369
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