第16話 街

 村へ戻る道中、ロニは洞窟で見つけたお金と宝飾品について考えていた。これらは盗品であり、街で換金するのは危険すぎた。もし捕まれば、それこそペイトの時とは比べ物にならない重罪に問われるだろう。


しかし、お金を使うのはどうだろうか。盗品と証明するのは難しく、少額ずつならば怪しまれないかもしれない。

ロニは、必要最低限の必需品、例えば調味料や石鹸などを買い、残りは全てゴブリンたちの食料に充てようと考えた。食料不足は深刻な問題であり、これがあれば当面の飢えは凌げる。


そのためには、街に行く必要がある。洞窟で見つけた地図で最も近い街を調べると、ロニが生まれ育ったケリェトからは離れていたが、一日か二日で行ける距離だった。


村に戻ったロニは集会所に皆を集め、街へ行くこと、そして手に入れたお金で村に必要なものを買うことを、ジェスチャーと絵で伝えた。


さらに、洞窟から回収した衣服や、盗品らしき陶器、宝飾品などをゴブリンたちに配った。見たこともない珍しい物に、ゴブリンたちは目を輝かせた。

宝飾品を体に巻き付けたり、陶器を不思議そうに眺めたりする者もいれば、中には人間の服を無理やり着て破いてしまう者もいる。彼らの無邪気な姿に、ロニはあの衝撃的な光景を少しだけ忘れることができた。


ロニ自身も、ボロ同然の服を脱ぎ捨て、盗品の女性用らしき服からサイズの合いそうなものを選んで着替えた。

少し大きいが、ボロに比べればましだ。そして、フード付きのマントと、顔を隠すための帽子を深く被った。ゴブリンを連れた子供は街では目立ってしまうためだ。


街への同行者はパウ一人と決めた。ベロもクロウも強くて頼りになるが、体格が大きい。小柄で、元々ペットとして人間に慣れているパウなら、街でも比較的怪しまれにくいだろうと考えたのだ。パウも、ロニについていけると聞いて、嬉しそうにロニの傍らに寄り添った。


一日休んで準備を整え、翌朝、ロニとパウは村を出発した。念のため、買い物を終えた後の荷物持ちとして、数匹のゴブリンを森の入り口近くに待機させておくことにした。


森を抜け、街へと続く道を歩いた。久しぶりに人工的に舗装された道だ。道沿いに畑が広がり、遠くに街の建物が見えてきた。


街の門をくぐると、「わぁ…」と声が漏れた。ロニは懐かしい感覚に襲われる。

活気に満ちた喧騒、様々な生活の匂い、行き交う人々の話し声。ケリェトとは違うが、生まれ育った街と似た雰囲気だ。


ロニは帽子を深く被り、パウを傍らに連れて街中を歩き回った。

すれ違う人々はパウを見て一瞬驚く顔をするが、ロニがしっかりと首輪とリードをつけているのを見てすぐに興味を失う。ロニの生まれ育った世界では、ゴブリンをペットとして飼うのは珍しいことではなかったからだ。


街中には、鎧を着た衛兵たちの姿もあった。彼らが傍を通るたび、ロニの心臓は跳ね上がる。父が連行された時の記憶が蘇るのだ。しかし、彼らはロニたちを気にかける様子もなく通り過ぎていった。怪しまれていないことを確認し、ロニは少しだけ安心する。


まず向かったのは雑貨屋だ。生活に必要な調味料、体を洗うための石鹸、荷物を入れる袋などを購入した。店の主人はパウを見て珍しがったが、それ以上の詮索はなかった。


次にロニは、ゴブリンの食料を扱っているであろうモンスターペットショップを探した。父の店のように小さなモンスターを扱っていれば、ゴブリンが食べる餌も置いているかもしれない。


街中を歩き回り、看板に様々なモンスターの絵が描かれた店を見つけた。目的の店はあそこだろう。ロニは深呼吸をして、パウと共に店のドアを開けた。


この街での最初の目的を果たし、ゴブリンたちの生活を豊かにするため、ロニは新たな一歩を踏み出した。ここから村に必要な物資を手に入れ、村の未来を切り開いていく

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