姫若、天下統一物語
孝彩
第1話 誕生したのは姫…?
『生まれる時代が違えば、私はどんな人生を送っていただろうか…』
皆様、初めまして。私(わたくし)噺家をしております。中村と申します。これからお話するのは、ある屋敷に産まれた姫の生涯でございます。どうぞ気が向いたらで結構でございますので、聞いていただけると嬉しいかぎりでございます。
さてさて…。今から語りまするは、かの有名な武将たちが産まれるずっと前。
まだ『神守(かみもり)』と呼ばれる者が天下を治める時代。神守は戦を好み、傍若無人な振る舞いで民たちを苦しめておりました。岩上家というある豪族に産まれし姫が神守を打ち倒し、民のために天下泰平を願い、天下統一を目指す物語にございます。
軒先にわずかに雪が残る弥生月。屋敷には元気な赤子の声が響いていた。
「おめでとうございます。奥方さま、元気な姫ですよ」
赤子の母は息も絶え絶え、出産というのはまさに命がけだ。
赤子の父は生んでくれた自分の妻を労いつつ、これでもかという笑顔で産屋に入ってきた。
「産まれたか!ようやった!ようやった!よく頑張ってくれた。ありがとうな」
「もったいなきお言葉でございます。殿、この子の名前をお付けください」
「…よし!朔弥(さくや)、お前は朔弥だ」
この時、岩上家にそれはそれは可愛らしい姫が誕生した…
…はずだった。時を経て8歳になった朔弥は端正な顔立ち、可愛いらしいことには変わりなかったが、女児にしては上背があり、それはそれは活発で腕白(わんぱく)に育っていた。
「父上ー!母上ー!見てください、こんなに大きな蛙を捕まえました!」
満面の笑みで走ってくるわが子を見て微笑ましいと笑顔を向けるも、朔弥の父であり、この屋敷の主である宗芳(むねよし)はほんの少しの不安が頭をよぎる。
「あのように男勝りでは嫁の貰い手がないのではないだろうか?」
「心配いりませんよ、殿。朔弥は素敵な子ですもの。年頃になれば、落ち着いてしっかりとした良いお嫁さんになりますよ」
「そうだと良いのだが…」
妻である藤(ふじ)は宗芳をなだめ、2人仲睦まじく微笑みながら朔弥を見つめる。
太陽が照り付け蝉が盛大に鳴き始めた文月。屋敷の庭には剣術稽古の音が響いていた。そこに居たのは、男にしては少し小柄で端正な顔立ち、艶やかな長い黒髪を一つに結び一所懸命に稽古をしている朔弥の姿。
「なぁ、藤よ。あの時、儂に言ったことを覚えているか?」
「えぇ。“朔弥は素敵な子ですもの”と言いました」
「違う!いや、違わないが。お前は“年頃になれば落ち着いて、良い嫁になる”と言ったのだ!」
「そうでしたっけ?」
「そうだったろ!今のあの子を見ろ!どこの剣術道場に出しても恥ずかしくないほどに磨かれた腕、体術や柔術も稽古中ときた…。あの齢であの出来、これからもっと強く逞しくなるぞ?」
「おやまぁ、それは頼もしいかぎりですね」
そう言うと微笑む藤を見て小さくため息をつく宗芳であった。
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