第20話 約束が果たされる、爽華祭(1)

 爽華祭そうかさい、それは私達の学校における二大イベントの一つ、体育祭の事である。

 けれど、普通の学校とは違って、私達には芸能科とSp科と言う特殊な学科がある為に、点数を競う様な形式ではないのだ。


 いかに華やかさを出せるか。いかに人々を魅了できるか。と言う所が重要視され、点数はまるで関係無い体育祭なのである。


 でも多分、こんな形になった「本当」の所は「Sp科と言うチートと、芸能科のスポーツ部があるから。競った所で……ねぇ?」って所だと思うなぁ。



 

「やっぱり、Sp科・芸能科揃うと壮観だわ。それに、めっちゃお得な感じ。さっきの芸能科の男女混合ダンスとか、超良かったもん。テレビかって感じでさ!」

「そうだねぇ」

 私は興奮気味に語る優理ちゃんのハチマキをキュッと結んでから、自分のハチマキをキュッと結び直す。


「それにしても、あれから石井の奴。すっかり大人しいね」

 まぁ、大人しくならざるを得ないか。と、優理ちゃんはケケッと意地悪が溢れた笑みを零した。


 私は何も言わず、少し離れた席に座っている石井君のグループをチラッと窺う。


 忍足君との乱闘があった翌日の事だった。石井君から「何か、聞いた?」と聞かれたけれど。私は「何も聞いてないよ」と答えてから言ったのだ。


「石井君。私、特別ふつうの恋をする。その特別ふつうを大切にしていきたいから、石井君の気持ちには応えられない。ごめん」

 キッパリとぶつけるや否や、石井君は「そっか」と端的に答えて行ってしまった。


 それからはもう、彼とは何も話していない。けれど、それは気まずいからだと思う。

 状況的にも、立場的にも。如何せん、女子同士のパイプラインによって、乱闘の原因は彼にあるらしいと瞬く間に広がってしまい、「最低」のレッテルが貼られてしまったからだ。


 私はサッと視線を優理ちゃんに戻してから「てか、マジあっついぃ」と、もう別の愚痴を零している優理ちゃんに付き合う。

「爽華祭はさぁ、見てて楽しいし、やるのも楽しいから良いけどさぁ。こんな太陽が煌々と輝いているなかでやんなくても良いよねぇ? 秋とかさぁ、冬にやる方が絶対良いってぇ」

 優理ちゃんは、このうだる暑さにブツブツと文句を並べ立てながら、ぶおおーんと回っているハンディファンを顔に近づけた。


 まぁ確かに、暑い。暑すぎる。六月半ばだって言うのに、太陽が本気を出しすぎている様に思える位だ。


 私は頭に水で濡らしたタオルをかけ、首のファンで涼みながら「秋は文化祭があるし、冬は行事をやる時期じゃないから難しいんだよぉ」と、優理ちゃんの愚痴をへにゃへにゃと宥めた。


 すると私の視界に、フッととある男女の姿が映る。

 私はの口から「あ」と、間の抜けた一言が零れた。優理ちゃんが瞬時にその一言に反応し、私の視線の先をパッと探る。


 そして彼等の行動を一瞥するや否やで、なぁんだと言わんばかりの顔で戻し「リボン交換ね」と微苦笑を浮かべて言った。


 私は忍足君と結んだ約束を思い出しながら「なんで、リボン交換なんだろう?」と、ボソッと呟いてしまう。

 そんな一言に、優理ちゃんは「そりゃ勿論、にあやかりたいからでしょ」と、肩を小さく竦めて答えた。

「ジンクス? そんなのあるの?」

 私がきょとんとして尋ねると、優理ちゃんは「めぐ、知らんの?」と大仰に驚きながらも、ちゃんと優しく教えてくれる。


「応援リボンを交換して、互いの小指に結ぶの。そうすると、離れる事なく、ずっと側に居られるって言う素敵なジンクスがあるのよ」

 因みに前まではハチマキ交換が主流だったけど。ハチマキは色々な弊害があって、すっかり主流は応援リボンになってますね。と、自分の肩に付けられているリボンをピッと指さした。


 私は「へぇ~」と感嘆しながら、肩に付けられたリボンにソッと触れる。


 爽華祭の応援合戦の為に各学科で付けられる、それぞれの応援リボン。ピンで止められてはいるけれど、上のリボンは割と簡単に外せられる様になっているのだ。

 だからこそ、リボンをそれぞれ好きな形で結んで参加する。私達のリボンは赤色と黄色のストライプ柄で、キュッと華の形にして結んでいた。(制作者は優理ちゃんで、他のクラスメイト分も作ってあげていた)


「まぁ、だからこそ忍足君もめぐに交換を持ちかけたんでしょ」

 それにしても、あの忍足君がジンクスにあやかりたいタイプの可愛い男子だったとはねぇ。と、優理ちゃんは面白そうに間延びした口調で言った。


 唐突過ぎる話題変換に、私はビクッと強張ってしまう。

 優理ちゃんは、私の親友であり、彼の協力者でもあるから本当に全部知っている。

 苦さ半分、恥ずかしさ半分になりながら「そうなんだよなぁ」と内心で独りごちてから、かぶっているタオルの端で口元を覆って突っ込んだ。


「なんで、急にそっちに行っちゃうかなぁ」

「あらら、めぐってば。そんなに照れなくても良いじゃん。ただ、忍足君のギャップ萌えがヤバいよね、良いよねって話なんだから」

「……今、そんな話だった?」

 絶対、そんな話じゃなかったよね? と、淡々と鋭い突っ込みを重ねてしまう私。


 けれど、その突っ込みは「さぁ、続いての競技はぁ!」と意気揚々と話し出す放送席の声にかき消されてしまった。

「借り物競走です! 競争者は箱に入ったお題を引き、引いたお題と共にゴールしてくださねぇ! ベタなお題も色々と入ってますがぁ、ちゃんと連れてきてくださいよぉ! クリアしたら、爽華そうかポイント高いですからねぇ!」

 放送席から、爽華祭運営の魂胆が見え隠れしているアナウンスが飛ぶ。


 ベタなお題、ねぇ。ま、この学校は青春をかなり売りにしているから、普通にやりそう。なんて思っていると、次々と参加者がスタートを切っていく。


 ゴールすると、お題を読み上げられ、連れてきたお題と一緒にゴールに座っていくのだが……今の所出ているベタは『気になっている人』『可愛いと思っている人』位で、あとは割と普通のお題だった。


 まぁ、そんなもんだよねぇと思っていると。スタートするや否や、飛び抜けた速さで他を圧倒し、あっという間に箱の元に到達した男子が一人。

 はっや! と目を見張って見ると、その容姿にはよくよく見覚えがあった。そのせいで「道理で、他より圧倒的に速い訳だよ!」と、内心で鋭い突っ込みが入ってしまう。

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