第17話 忍足君と石井君が、乱闘!?
「実習のせいですっかり忘れてたけど、普通科って本当にSp科と接点ないよねぇ。まるで会わないし、向こうの授業体系が特殊過ぎて、廊下ですれ違うなんて事も起きないしさぁ」
優理ちゃんはしょんぼりしながら呟くと、ハムッと握りしめているサンドイッチにかぶりつく。
私はそんな一言に「そうだね」と、素っ気なく頷く。
「冷たいなぁ」
寂しくないのぉ? と、もごもごと膨らむ頬袋をそのままに唇を尖らせてきた。
「寂しくないよ。清々してる」
私は端的に答えてから、母が弁当の彩りとして添えたプチトマトを食べる。
酸味と甘みが効いた、新鮮さが溢れるトマトの味が軽やかに口腔内を走った。
「今は石井君が居るから?」
突然かけられた、想像もしていなかった頓狂な質問に、私はブッと吹き出してしまったが。すぐに「優理ちゃん!」と声を荒げる。
「変な事言わないでよ!」
「何よぅ、めぐを取り巻く
優理ちゃんは一切悪びれず、あっけらかんと言ってのけた。
その堂々たる姿勢に、私は思わず舌を巻いてしまう。
確かに、石井君に告白された事は話したし、石井君からのアタックが続けられている事も確かだけど。そこまで明け透けに言うなんて……。
私が彼女らしい凄さに閉口していると。優理ちゃんは「石井君にオッケー出すの?」と真剣な口調で問いかけてきた。
私はキュッと軽く唇を結んでから、ゆっくりと口を開く。
そして答えようとした、「うん」と。
けれどその答えは、優理ちゃんに向かって飛ばされる事はなかった。
何故なら、私が口を開こうとしたと同時に飛んで来た声があったから。
「ちょ、ヤバいよ! めぐ! 優理! こんな所で、呑気に飯食ってる場合じゃないよ!」
私達の居るベランダの窓をガラッと開け、
私達は彼女の興奮に会話を止め、キュッと眉根を寄せて尋ねた。
「何? どうしたの?」
私が問いかけると、和世ちゃんはニヤリとした目で私だけを捉える。
え? 何……?
益々怪訝が深まった、その時だった。
「石井が食堂で喧嘩、乱闘中だって! Sp科の忍足と!」
和世ちゃんからスルッと明かされたとんでもない事実に、私は愕然としてしまう。
忍足君と石井君が、乱闘? 嘘でしょ? !
私はガタッと立ち上がり、弁当をちゃんと仕舞う事も忘れ、慌ててクラスを飛び出した。
向かう先は、勿論、食堂だ。
自分の持てる最速を当てて駆け、食堂に飛び込む。
確かに、辺りは興奮に塗れた喧噪が広がっていた……けれど。「凄かったなぁ」「いや、相手が悪すぎただろ」「十影君、喧嘩中でもめっちゃ格好良かったぁ」と、私の鼓膜に入ってくる言葉はどれも過去形だった。
まさか、本当に? と言う想いが、染みの様に張り付いて拭えない。
その焦りに駆られた私は、近くに居たクラスメイトの男子を急いで捕まえ「何があったの?」と問いかけた。
「うーん。僕達がいた所は、ちょっと離れていたから、あんまり分からないけど。Sp科の忍足君が、突然怒鳴って、石井君に殴りかかった様に見えたよ」
私は話された過去に「えっ?」と目を丸める。
「忍足君から先に手を出したの? ! 石井君からじゃなくて? !」
信じられず、確かめる様に繰り返した。
けれど、目の前の相手は容赦なく「うん」と軽やかに首肯する。
「周りが飛びかかった忍足君を止めようとしたんだけどさ。止められない様に上手く動きながら、石井君をボコボコにしちゃってた。本当に凄かったよ」
そんな、嘘でしょう。忍足君は先に手を出す様な人じゃないと思っていたのに。
……ううん、そうだと決めるのはまだ早いわよ。だって、忍足君は私が攫われた時も私が攫われたと言う実害があってから実力行使に移っていた人だから。
きっと、先に手を出した理由がある……はず。
私が心中で曖昧に結ぶと同時に、「でね」と前から続く言葉が大事な事を打ち明けた。
「急いで来たSp科の女の先生が忍足君を一撃で沈めてさ、どっかに連れてったよ。二人の喧嘩よりも、寧ろそっちの方が凄かったかもね」
Sp科の女の先生、って……。
私の脳裏に、麗しい相貌の枢木先生がパッと現れ、耳にかかった髪を艶然とかき上げる。
私は「先生、どっちに行ったか分かる?」と、次の情報に向かって飛びついた。
「多分、Sp科の棟の方じゃないかなぁ」
「分かった、色々ありがとね!」
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