ママ活してたら同級生に呼ばれた

堀と堀

第1話 待ち合わせ

 普通のバイトをするより、効率がいいから──という理由でママ活をやってる。

 まだ高校生だけど、母親しかいないし、母親もアル中気味だから、仕方ない。

 

 ある日待ち合わせ場所に向かうと──

 待っていたのは同級生だった。



 名前は長井ながいさんという。その名前の通り背が高い。

 ちょっと大人っぽい顔をしていて、女子たちに時折“お姉ちゃん”と呼ばれている。

 性格も落ち着いてて、お嬢さんっぽい。

 ちょっと俯瞰して見てるような感じ。物理的にも。


 今は……僕とほぼ同じ高さで、じっと見ている。

「え……マホさんって、長井さんのこと?」

 場所はここで間違いないはず、他に待ち合わせしているような人もいない。

 数秒の沈黙の後、やっと切り出す。

「シュンってえっと……誰君だって?」

内上ないあがら……だけど」

「あ、そんな忘れなそうな名前だったか……」

「……」

「……」

「じゃあ、デートする?」

「つっこんでよ!」


 噴水の隣に座って、ぼんやり行き交う人を眺める。

 ゴールデンウィーク目前、あったかい日差し。

 噴水の水滴がミストみたいになって涼しい。

 ──お互いに、事情を説明しないと話が進まなそう。

「あの、秘密にしてね。俺がママ活してること」

 学校にばれたらまずい。同級生にばれても、からかわれて噂が広まりそう。

「うん」

 膝に乗せたバッグを抱えてる。

「趣味は人それぞれだよ」

「……」

 趣味だと思われたらしい。

「長井さんは趣味なの?」

「……それ聞くんだ」

 まあ、呼ぶ側は呼びたくて呼んでるしかあり得ない。

 恥ずかしそうに切り出した。

「好きなんだ……年上扱いされるの……」

 クラスでもたまに年上扱いされてる。

 適当に流してると思ってた。

「性癖は人それぞれだよ」

 言い返してみた。

「せいへきっ……! かなあ……?」

 ちょっと俯いて、上目遣いに見る。

 彼女の方が相談する立場になってる。

 ママ活してると大体そうだ。

 いつも頼られる側としてふるまっているけど、懐きたがる。

「ふう……」

 空は青い。

「無視された」

「どう答えればいいのか分からなかったから」

 あまり話したことない相手だけど、結構普通に話せてる。

 この変な境遇のせいかも。変に腹は割れてる。

 お互いの裏の部分をさらけ出して。

「折角だし、一緒に遊ぼう」

「小学生みたいな誘い方」

 やり返されたのかな? 満足そうに笑う。

 目を見開いてみたら、キョロっとした目で見返された。

「えー……恥ずかしいから帰りたかった」

 バックを膝の上に抱えて、脚をぶらぶらさせる。

 身体の大きい幼稚園児みたい。

「じゃあ、解散する?」

「……」

 暫く二人、街の景色を眺めて

「どっか行くか」

 気を取り直すみたいに、長井さんは立ち上がった。

 驚いた鳩が飛んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る