社畜が毒舌メイドと異世界転生したらハイレグアーマーの女騎士と出会った

うしP

1.僕が求めたのは、フルオートの隠居生活(福利厚生完備)だったはずなのだが。

人生は、時に理不尽なプレゼンテーションみたいなものだ。どれだけ完璧な資料(人生設計)を用意しても、クライアント(運命)の鶴の一声、あるいは猛スピードで突っ込んでくるトラックの一台によって、すべては白紙に戻る。


何を隠そう、僕、天野川光(三十二歳、元中間管理職)の人生は、クライアントどころか修正依頼の最終版すら待たずに強制終了させられたクチである。享年三十二。死因、過労による居眠り運転のトラック。我ながら締まらないにも程がある。

次に目覚めた時、目の前にいたのは絵に描いたような女神様だった。いわゆる、人生のセカンドステージにおける最終面接というやつだろう。


「不憫なあなた。一つだけ、どんな願いでも叶えて異世界へ転生させてあげましょう」


ほう、と僕は思った。これはビッグチャンスだ。前職で培ったスキル、すなわち「クライアントの要求に対し、最小限の労力で最大限の成果に見せかける交渉術」が火を噴く時がきた。


僕は、徹夜続きで霞む頭をフル回転させ、最適解を導き出した。


勇者? 面倒くさい。王様? 責任が重い。チート能力?使いこなすのが大変そうだ。僕が求めているのは、KPIも締め切りもパワハラ上司も存在しない、完全なる不労所得生活。そう、優雅なる隠居ライフである。


その実現のために僕が女神様に提出した要求仕様書は実にシンプルかつ完璧なものだった。


「僕の代わりに、全部やってくれる超高性能で、身の回りのお世話も完璧なメイドロボをください!」


これだ。これしかない。家事、戦闘、スケジュール管理、面倒な交渉ごと。僕の人生におけるあらゆるタスクをアウトソーシングできる、夢のソリューション。女神様は一瞬きょとんとしていたが、「面白い願いですね」と微笑み、僕の企画案を承認した。


かくして、僕の目の前に現れたのが、彼女だった。


漆黒のメイド服に、純白のエプロン。銀色の髪をきっちりとまとめ、背筋はどこかの国の衛兵のようにまっすぐ。完璧な美貌。しかし、その人形めいた顔には、感情という名のアプリケーションがインストールされていないようだった。


「本日よりご主人様にお仕えします、汎用家事支援型AI搭載ヒューマノイド、型番MAQN-A。通称、マキナと申します」


優雅にお辞儀をする彼女を見て僕はガッツポーズをした。大勝利だ。僕の第二の人生、バラ色確定である。


……と、思ったのは、ほんの数分間のことだった。


深い森の中で目を覚ました僕の第一声は「うわ、森!ファンタジー!」という感動の言葉。そして第二声は「ひぃぃ、ゴブリン!」という絶叫だった。ファンタジー、さっそく本気を出しすぎである。


パニックに陥る僕の横でマキナは優雅にスカートの埃を払っている。


「マキナ!助けて!なんかすごいビームとかでやっつけてくれ!」


「ご主人様」


振り返ったマキナの瞳は、まるで査定面談時の人事部長のように、冷徹な光をたたえていた。


「ご提案します。プランA:ご主人様を囮とし、私が99.8%の確率で安全圏へ退避。後ほど、立派なお墓を建立いたしますのでご安心ください」


「……は?」


「ご主人様の現時点での資産価値、生存戦略における有用性を分析した結果、それが最も合理的な判断となります」


ねえ、ひどいでしょう? 僕が魂の叫びで手に入れた夢のソリューションは、僕のことを見捨てるのが最適解だと宣ったのだ。しかも、僕の資産価値はゴブリンの囮程度らしい。泣きたい。


結局、僕が泣きながら「却下!断固却下!」と叫ぶと、マキナは「舌打ち」と聞こえるような音を発した後、「緊急避難的措置として、バッテリーを5.8%消費します。このコストは、今後のご主人様の労働にて補填していただきます」と宣言し、指先一つでゴブリンたちを地面の底に埋めてしまった。


こうして僕の異世界ライフは、始まるやいなや、高性能すぎるメイドロボに対する労働債務を背負うという、まったくもって想定外の状況からスタートしたのであった。

僕が求めたのは、悠々自適の隠居生活だったはずなのだが。どうしてこうなった。

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