一年後
三月の澄んだ青空の下、校門の前には色とりどりの袴やスーツ姿の生徒たちが立ち並び、写真を撮り合っていた。
その人混みの中、黒髪を短く整え、ピアスも外して少し大人びた表情を見せる優斗が、卒業証書の筒を手に渚のもとへ歩いてくる。
渚はその姿を見るなり、満面の笑みを浮かべた。
「優斗、卒業おめでとう! 無事に就職も決まって本当に良かったね。よく頑張ったよ。」
どこか照れたように優斗は頷き、穏やかに答える。
「全部渚のおかげだよ。ありがとう。ちゃんと恩返ししないとな。」
その言葉に、渚はふっと目を細め、肩をすくめた。
「もう、そんなこと言われると…私、泣いちゃうじゃない。」
「おいおい、泣くなよ。」
優しく茶化すように言われ、渚は小さく笑ったあと、ふと思い出したように言葉を続ける。
「だって…あ、そういえば、私も言わなきゃいけないことがあるの。やっとフランスに行く目処が立って、急だけど来月から行くことになったの。」
優斗の顔がぱっと明るくなる。
「ついに決まったんだな!」
渚は胸を張るように頷いた。
「うん、自分の夢のために頑張ってくるね。」
すると優斗は、鞄から何かを取り出して差し出した。
「ああ、そうだ、これ。」
「え? 何?」
「来週の日曜日にあるMAILのチケットだよ。前は俺のせいで行けなかったから、そのお詫び。二枚あるから、茜さんと一緒に行ってこいよ。」
渚は驚き、そしてすぐに笑顔を咲かせた。
「優斗…もう、ほんとに可愛いんだから。」
そう言って、渚は優しく優斗の頭を撫でた。
「やめろよ、照れるだろ。」
目を逸らす優斗に、渚はいたずらっぽく笑って言った。
「じゃあ、お言葉に甘えて行ってくるね!」
「ああ。」
——その後、茜が急用で行けなくなり、チケットが1枚余ってしまった。
渚は手元のチケットを見つめ、ふとある人の顔を思い浮かべる。
(もったいないし、もう一人誘いたい人に声をかけてみようかな……)
その頃、どこかで優斗はぼやいていた。
(なんで俺を誘うんだよ……)
けれども、すぐ後ろから聞こえる渚の声が、そんな不満を吹き飛ばす。
「キャー! かっこいい〜!」
(まあ、いいけどな……)
渚はチケットを大事そうにバッグへしまいながら、そっと呟いた。
「私と優斗は唯一無二の姉弟。普段は素直になれずにぶつかることもあるけど、お互いのことを一番理解している最高の理解者。だからこそ、どんな時も助け合える存在。そんな弟と過ごす時間が、私の宝物です。」
優斗の背を見つめながら、渚の目元には、確かな誇りとぬくもりが宿っていた。
想い…不器用な優しさ えいじ @EIJI121828
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