想い…不器用な優しさ

えいじ

いつもの姉弟喧嘩

私の名前は坂井渚。二十四歳。

ファッションデザイナーとして日々忙しく働いている。


弟の優斗が生まれる直前、父は病に倒れ、帰らぬ人となった。

母はそれでも前を向き、一人で私と優斗を育ててくれた。強くて優しい人だった。

だけど、その母も昨年、同じ病で静かに息を引き取った。


それからは、三つ下の弟と二人きり。

気づけば私が「家族の大人」になっていた。


その日も夜の十一時を回った頃。

玄関のドアが乱暴な音を立てて開いた。


リビングには、仕事で使うフランスの雑誌、スケッチブック、色見本の束が無造作に広がっている。私はペンを置き、眉をひそめた。


「優斗、さっき学校から連絡があったの。……またサボったでしょ。どこで何してたの?」


制服のままの彼は、靴を脱ぎながら面倒くさそうに言葉を返す。


「でけぇ声出すなよ。うるせーんだよ」


坂井優斗、十八歳。

思春期、反抗期、真っ盛り。

私の声なんて、今の彼には届いていないようだった。


彼は一瞥だけしてテーブルの上の資料に目をやると、何も言わずにリビングを横切り、階段へ向かう。


「待ちなさいよ。話は終わってないでしょ!」


私は椅子から立ち上がり、少し声を荒げた。


「最近帰ってくるの、遅すぎ。高校生が夜の十一時なんて……一体何してたの?」


「……友達と遊んでただけだって」


語尾を投げ捨てるようなその声に、私はため息をついた。


「……また補導されたら、今度は迎えに行かないからね。明日は絶対、学校行きなさいよ」


彼は答えず、背を向けたまま階段を上っていく。


返事も、振り返りもしない。

あの子の不器用さは――きっと私に似たんだろう。



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