第2章
第8話 遠山誠の仕事
朝、アラームの音で目を覚ます。
カーテン越しに差し込む淡い光が、まだ少し重たいまぶたを刺激する。一つ息を吐いてベッドから抜け出し、キッチンへ向かう。コーヒーメーカーのスイッチを押し、着替えを済ませると、マグカップを片手に仕事部屋に入る。
自宅の一室は仕事専用の空間になっていた。壁際には大型モニターとグラフィック用タブレット、デザイン系雑誌や洋書、案件ごとに整理されたファイルボックスがきちんと並んでいる。デスクの端にはタスク管理用のノートとペン立てを置いている。
マグカップを置くと、俺は椅子に深く腰掛ける。
ノートPCとサブモニターを起動し、まずはメールチェックから始める。大手クライアントや広告代理店から、納品データや新規案件の打診が届いていた。チームのチャットツールの通知も次々と鳴る。
「遠山さん、昨日のロゴ案、最高でした!」
「今週のミーティング日程、調整お願いします」
業界の仲間やプロジェクトメンバーと、リモートでテンポよくやり取りする。
カレンダーアプリで今日の商談やオンライン会議の時間を確認し、デザインファイルや資料を開く。モニターの向こう側でクライアントの担当者と画面共有しながら、提案資料をブラッシュアップしていく。
昼は仕事の合間に配達でサラダを注文する日もあれば、カップ麺を食べながらタブレットで資料を見直すこともある。午後は別の案件で広告代理店のクリエイティブチームとオンラインミーティング。相手は名のあるクリエイターやディレクターばかりだが、「遠山さんと一緒にやれて助かる」と言われると、やっぱり嬉しくて、密かに誇らしい。
時間があると、新しい案件のためのトレンドリサーチや、海外のデザインアワードの入賞作品をチェックするのも日課の一つにしている。
夕方には納品ファイルをクラウドストレージにアップし、進捗管理ツールに報告を上げる。時には雑誌やWebメディアのインタビュー原稿のやり取りも入る。自分の名前が業界紙で紹介されている記事を目にすることも、最近は増えてきた。
気がつけば、外はすっかり暗くなっている。カーテンを開けると、街の灯りが遠くに滲んでいる。
食卓には一人分の夕食だ。テレビもスマートスピーカーの音楽も、どこか部屋を満たしきれない。それでも、仕事に呼ばれ続ける充実感と、「また明日も誰かの期待に応えられる」小さな誇りが、今の自分を支えていた。
デスクのライトを落とし、静かな夜を、一つ息を吐いて受け入れる。
こうして今日もまた、生きているという確かな感覚と共に、一日が終わる。
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