「ダサくても、まじめ、一生懸命はカッコいい」石井裕也監督特集連載①
@masareds
第1話 『舟を編む』
口下手で営業部に所属しているが、まったく成績があがらない出版社に勤める馬締光也(松田龍平)。馬締は、大学で言語学を履修していて借りている部屋にはびっしりと本と辞書に囲まれて生活している。彼は本、言葉が好きなことを一瞬で理解させる。
出版社の辞書編集部に欠員が出ることになり、「右」の意味を説明できた馬締は辞書編集部に異動になる。この辞書編集部には、辞書作りの専門家、老国語学者松本先生(加藤剛)、辞書編集部のベテラン社員荒木(小林薫)、口が上手で思いやりのある西岡(オダギリジョー)契約社員の佐々木さん(伊佐山ひろ子)、この5人で24万語を網羅した辞書を作ることになる。
地道な作業の繰り返し。一語一語言葉をチェックし新しい言葉も集める。ただ馬締は、黙々と一生懸命仕事に取り組む。ある日住んでいる仮家の一室に住みだした女性と出会う。馬締は、大家さんの孫娘香具矢(宮崎あおい)に一目ぼれする。
出版社の辞書編集部は、地味、変わり者しかいないという偏見を持たれている。辞書作りを進めていく中で松本先生の熱い思いに引っ張られ、辞書編集部のメンバーのチームワーク良さが感じられる。女性でありながら板前をしている香具矢のすっと背筋が伸びた姿勢の良さが仕事への真摯さ、まじめさを表していてカッコいい。
この映画に出てくる人はみんないい人であり、優しい言葉しかない。汚い言葉が一切出てこない。いかに言葉を大事にしているかを印象つける。そのキャラクターをまさに体現している役者達の演技の見事さに感服させられる。石井裕也監督の演出と役者達のハイレベルな演技力は、まじめに真摯に辞書を作っている一生懸命さが美しくもある。
すぐに結果の出ない仕事。この辞書も完成まで13年かかった。13年間一つの目標に向かって仕事をやり続ける根気は、まじめさと一生懸命さがなければやり遂げられない。会社の方針転換でメンバーが入れ替り新しく辞書編集部の異動してきた黒木華もメンバーのまじめさ、一生懸命さに触発されて辞書作りに夢中になっていく。特に締め切り前のラストスパートは、疲労と焦りがまざりあい、アルバイトの人たちも加え辞書を完成させたときの満足感、達成感がいきいきと伝わってくる。辞書作りにかかわったすべての人達のまじめさ、一生懸命さは本当にカッコいい。
完成した辞典の名前は「大渡海」。「辞書は言葉の海を渡る舟、編集者はその海を渡る舟を編んでいる」という志しからのネーミングだ。
今の時代辞書を引くひとが何人いるだろうか。辞書作りへのこだわり、大変さを思うともっと言葉を大切にしたいと自戒を込めて思う。辞書を作る人がいるから、辞書があるから私たちは言葉の海を渡れるのだ。SNSで簡易に言葉を使う時代だからこそ改めて言葉の大切さを実感させてくれる映画であった。
多くの人に見てもらいたい映画です。
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