世界を救え!勇者戦隊セブンブレイブス!!

オカバ

第1話 社畜生活との別れ

 「選択肢は以上です。希望する選択肢を口頭でお答えください。」

 音声ガイドは情緒皆無だが明る目のトーンで尋ねてくる。

 状況を整理する間も与えられずさらに表示が追加される。


 「10秒以内にお答えください。お答えにならない場合、表示以外の条件(ランダム)で転生が開始されます。」

 カウントダウンが容赦なく始まる。


 親切と無茶苦茶のセット販売でないと生まれ変われないのかー。


 理不尽に戸惑いながらも色々な情報が頭の中を駆け巡る。

 忙しい頭の中で、なんでこんな事になったのか、昨日から今にかけてを思い返していた。


----------


 今、自分は確実に疲れている。普通ならできることが出来なくなるくらい疲れている。


 例えばクライアント宛のメールを同じ箇所で繰り返し間違うとか、セルフでコーヒーを淹れに席を立って手ぶらで戻るとかしてしまうくらいには。


 でも病気にはならない。倒れない。会社には通えてしまう。タフなのかストレス耐性が強いのか、雪国出身だからなのか?とか、「疲れている」と感じてはいても、実際には自分の感覚そのものも、その原因になっている多種多様の理不尽も大したことがないのか。

 いずれにしても医学的には健康体のカテゴリーだ。訴えた思いだけが残る。


 今日も閉塞感に満ちた、同僚が持ち鍛えてくれたり窓際に追いやられたまともな先輩方から労われたことを除けば、達成感が絶望的に感じられない無理難題無駄満載の各種業務を乗り切って一日が終わった。


 愚痴を言っても始まらないのは分かっている。

 「気づいているなら自分から変化を起こして違う環境でやり直せば良いじゃない?」とか言う勝ち組感MAXのど正論のアドバイスが聞こえてきそうだけど、そこまでの気力は無い。


 社畜化というのは生かさず殺さず絶妙な匙加減で静かに進行するから、特にお人好しであるほど自分の置かれた状況に気づいた頃には気力もタイミングも奪われている。

 アフターフェスティバルだ。


 そもそもうちの会社がこの世界の縮図なら、環境変えたって自分だけ意識変えたって変化なんて起こらないだろうなって思ってしまう。


 社会に自由があるように見えるのは表層的な部分で、実際には生まれてから死ぬまで閉ざされているヒエラルキー。


 世間は欺瞞に満ちているのに庶民がそれに気づくことができないように巧妙に仕組まれている高度に悪意に満ちた統治システム。


 人間なんて、集団行動させるとアリより効率がわるい作業しか出来ないような、意思疎通の下手な生き物なのだ。忘れっぽいし。


 そこを突く、支配者層=悪意の塊が存在する。


 その賢しさ、巧妙さ、我慢強さ、粘り強さ、勝負強さ、残酷さ、強大さ。


 お人好しの個人が抵抗できる余地は無い。


 ここまで人間を家畜扱いできるシステム作って維持してるって、支配者層ってある意味スゲェ。間違いなく悪魔だ。


 時既に遅し。故に思考放棄。


 思考を放棄するから記憶に残らない会社からの帰り道、半自動で自宅まで戻り、ため息とともに玄関のドアを開け、倒れるようにベッドに横たわった。


 そして、魔法のように朝だ。

 ついさっきベッドにダイブしたはずだが朝だ。

 食事もロクに摂っていなくても歯を磨いてシャワーを浴びて下着やシャツや靴下やネクタイを替えて着替えつつ、脱いだ衣類は身に染み付いた最小限の動作で全自動洗濯機に入れる。

 そして再び会社へ半自動で向かう。ビバ全自動と半自動のコラボレーション。


 歩いて10分程で最寄りの駅だ。

 気づいたら横断歩道の向こう側は駅だ。

 もうこうなるとほぼ全自動だ。

 恐るべき効率性。

 人の感情入る余地なし。

 イッツオートマティック。


 信号が変わらなきゃ良いのにと思いつつ、シャツの胸ポケットに入れているスマホを弄りつつ車道に目線を向けると、小さな子どもがよちよち車道に・・・。

 !っ赤!、大型トラックッ、クソッ間に!掴ん、歩道、頼む!誰で!この子受け止////


 周囲の悲鳴が耳に届くのと、身体を衝撃が襲うのが体感的にはほぼ同時。

 脳内でそれらの情報がパンクしたのが原因かどうか分からないけれど、大事なこと子どもの無事を最後まで見届けられず、何が何だか分からないうちに意識が途切れた。


----------


 「ここは・・・?」

 意識が戻った?後に初めて視界に入ったものは異世界もので定番の真っ白空間。

 真っ白のくせに天地の別が分かりやすい、大体の人がイメージできる真っ白空間。

 何故か明るめ真っ白空間。

 ある意味平凡だな真っ白空間。

 言い過ぎたごめんなさい。

 真っ白空間に恨みは無い。


 そして目の前には、パソコン作業においてはお目にかかりたく無い、目線の高さで宙に浮かぶ向こうが透けて見える15インチサイズのブルースクリーン。


  軽く無視して、まずは誰かいますかと言いかけた瞬間に、脳内にひびく?音声と共に白い文字が次々とスクリーンに表示される。


 「貴方は不慮の事故で命を落としました。謹んで哀悼の意を表します。これまでの人生が高く評価されたため、この後異なる世界に転生し、新たな人生を歩んでいただくことになりました。

 転生開始まで暫くお待ちください。」


 音声ガイドだ。

 完璧に余計な感情を排した端的な音声ガイドにより、突然社畜的生活が、一つの人生が終わったことを知る。


 このままじゃ何か味気無いから、自分で言っとくか。

 今日までお疲れっした。


 自分の視界?に映るのは出社する時に着ていたスーツだ。靴もPCリュックもスマホまでそのままだ。

 使えるかどうか試そうとして、シャツの胸ポケットにしまってあるスマホを取り出そうとした。

 ・・・。

 取り出せない。

 ?。

 ビジュアル的にはいつもの通りシャツの胸ポケットに収まっている。

 もう一度試す。

 縫い付けられたようにではなく全く動かない。

 自分で自分を持ち上げようとするくらい動かない。


 さすがは死後の不思議真っ白ワールド。


 死んだの自覚させるのと、いきなりだと戸惑うだろうから生前の姿で安心させるのと半々ってところか。


 勝手にされたことの意図を解釈していたら、ブルースクリーンの新たな表示とともに再び音声ガイドが流れ始めた。


 「大変お待たせしました。次の転生先は、かねてからのご希望の通り定番の異世界、剣と魔法の世界、鍛えれば鍛えるほど成長する摩訶不思議なファンタジー世界ワールドが選定されました。


 また、これまでの「徳」を査定いたしました結果、極めて高い潜在能力を持つ人間として生まれ変われることになりました。

 初期能力も非凡ですが、頑張れば頑張るほど想像の埒外に至れるほど成長を目指せます。


 さらに今回は初期特典として、出生条件の選択ができます。


 これもこれまでの「徳」を査定した結果となっております。過去の人生をどうか過小評価せず、胸を張って次の人生を歩んでください。」


 ・・・・。まぁなんだ。

 文句はねーが。

 死んだ後までシステム様がついてくるのがモヤモヤする。

 そのあたり、色々な思いが喉まで出かかっていたが言葉にはならない。


 そんな俺の複雑な心情は顧みられることも無く、ブルースクリーンに新たに文字列が表示され、再び音声ガイドが流れる。


 「初期特典として、一つお選びいただけます。」


 画面に示されたのは次の三つの選択肢。


 選択肢A:大貴族の嫡男。ただし両親も兄弟姉妹も親族も執事もメイドも飼い犬に至るまでALLクズ。360°敵だらけ。でも何故か地位は安泰、領地は反映、お金は減らない金満豪運人生。


 選択肢B:超弩級貧乏一家の長男。物心着く頃に父親母親確定で他界。その後クズ貴族に拾われほぼ奴隷状態にはなるが奇跡のように頑健な肉体が手に入りる。多分病気知らずで絶倫確定。


 選択肢C:教会が運営する孤児院から孤児としてスタート。天命を与えられた勇者として生きる道。貴方とともに成長する専属オペレーター付き。


 ・・・。

 えっと、「特典」の意味分かってる?

 或いは俺がサービス感や特権感を理解できないだけか?

 そっちか?


 「選択肢は以上です。希望する選択肢を口頭でお答えください。制限時間は10秒です。お答えにならない場合、表示以外の条件(ランダム)で転生が開始されます。」


 文句を言う暇も迷う暇もない。


 画面上ではカウントダウンが容赦なく始まる。

 親切と無茶苦茶のセット販売でないと生まれ変われないのか?

 でも選ばないわけにはいかない。

 ここ最近では最大限に脳みそをぶん回す。

 って今、死んでるから脳みそあるかどうか微妙だけど。ヨホホ。


 Aは無理だ。Aの状況で支配的に全てコントロールできるように人間関係構築できる才能があるなら社畜化してない。てか人間関係死んでるのはもうゴメンだ。

 Bも意味ワカラン。頑健な肉体でしかも絶倫確定ってなんだよ。病気知らずでも病的な連中に奴隷化されるんなら意味ねーじゃん。

 ランダムも勘弁してくれ。この世界システム自体が人をなんだと思ってんのかワカランから飛ばされる先が想像できなさ過ぎて怖すぎる。


 なんかめちゃくちゃCに誘導されてね?

てかなんだよ。

 選択肢の前の「かねてからのご希望」って。ゲームもファンタジーも好物だけどさ。

 ガチでまんまの世界ってどうなのよってあ、やべ。後2秒、1びょ・・・

 「選択肢Cを希望!」

 叫ぶように選択。

 直後にカウントがゼロを表示。


 あれ?やっちゃた?


 「・・・回答を確認しました。選択肢Cへの転生を開始します。」

 その音声ガイドが流れたことを意識したかしないかの刹那に俺の意識が途切れる。


 「業平透様。どうぞ有意義な人生をお送りください。」





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