「五姓特権」の選ばれし名字たち
ちびまるフォイ
五姓特権の面汚し
「これよりこの国では、数の多い名字を特権名字として定める!!」
王が「五姓特権」を定めた。
この国にいる多い名字の上位5位までは特権階級として扱われるという。
それをテレビで見ていた山田太郎は歓喜した。
「やった! 特権階級! マジかよ!!」
山田に生まれて本当に良かった。
パーティ用のピザを注文していると、名字上位5が発表された。
1位:佐藤
2位:鈴木
3位:高橋
4位:田中
5位:伊藤
「あれ……? や、山田は……?」
山田太郎は特権階級ではなかった。
制度が開始されると街は一気に二分された。
道は「五姓特権用レーン」が作られ、
一般名字の人間は入れない。
ドラマや映画には特権の名字たちが選ばれ、
一般の名字の人は出演できないし見ることもできない。
就職や受験もまず特権名字の人間が合格し
余った枠を一般名字の人間が奪い合うことになった。
優遇される名字はよくても一般名字は一気に生きづらい世界。
「なんでこんな扱い受けなきゃいけないんだ……。
そうだ! 結婚をして名字を変えちゃおう!!」
思い切って結婚相談所で「五姓特権」とのお見合いを取り付ける。
お見合い当日。
「こ、こんにちは。今日はお日柄もよく……」
「あなた名字は?」
「え? や、山田です」
「あらそう。じゃあダメ。帰って」
「まだなんのプロフィールも話してないのに!?」
「おおかた私の名字目当てでしょう?
鈴木になりたいだけって顔に書いてあるわ」
「ぐっ……」
「そんな人間とお見合いする時間ももったいない。
はあ、これだから一般名字の人間は品位がなくて困るわ」
「うわぁぁぁあん!!」
誰しも考えることは同じようで、
「五姓特権」の名字を持つ人にはお見合いの依頼が多い。
それだけに名字目当ての結婚だということも即バレてしまう。
「結婚もできない。名字は変えられない……。
俺は一生このまま虐げられ続けるのか……」
ただ山田で生まれたばかりに。
それだけで奴隷同然の生活をさせられるのか。
納得いかない。
「こんな世界まちがっている! なにが名字だふざけんな!」
追い詰められた山田太郎の思考はより極端で過激な方法に傾く。
やがて「名字解放戦線」とかいうテロリストグループに入った。
「山田太郎、我々の仲間に入ってくれて嬉しいよ」
「はい、一緒に五姓特権をぶちこわしましょう」
「もちろんだ。そこで山田太郎。お前にやってもらいたいことがある」
「なんなりと」
「この名字感染ウイルスを、五姓特権居住区に撒いてほしい。
そうすれば特権階級のやつらの個体数は一気にいるはずだ」
「まかせてください。でもあの居住区に一般名字は入れませんよ?」
「そこでこれを用意した」
「これは……偽装名字!?」
「そうとも。貴様はこれより鈴木太郎として潜入するんだ。
そして五姓特権のブタどもを死滅させてこい」
「わかりました!!」
山田太郎あらため鈴木太郎は特権居住区へと足を運んだ。
偽装名字がバレるんじゃないかと心配していたが、あっさり通過できた。
「こ、これが特権居住区……!?」
そこに待っていたのは現代の楽園だった。
五姓特権専用の高級住宅が並び、緑生い茂る街。
あらゆるサービスが無料で受けられて快適そのもの。
面倒なことはお抱えの「一般名字奴隷」にやらせるので、
自分はいつも遊んで暮らすことができる。
「ウイルス爆破する前に……ちょっとくらい遊んでもいいよな……?」
鈴木太郎はちょっとだけ「五姓特権」を味わうことにした。
最初は少しだけ満喫するはずが、1日2日と伸びて気がつけば半年が過ぎた。
「はぁ~~……五姓特権って最高~~……」
プールで浮き輪に揺られながら特権に浸っていた。
五姓特権の名字たちは働くことも努力することも不要。
こんないい生活が続けられるなら、特権制度は続けられるべきだ。
潜入する前に渡されたウイルスももうどこに置いたかわからない。
「今日も水着美女をはべらせて
トロピカルジュースを飲むだけの日々を過ごすぞ~~……」
今日1日もしょうもない日程を考えたとき、
顔を上げると警察が待っていた。
「うえ!? け、警察!?」
「こんにちは。あなたが佐藤太郎さんですね」
「え? ええ……?」
「実はあなたに逮捕状がでています」
「ま、まさか名字のことですか!?」
「いえ。あなたが自転車のサドル盗んだという罪です」
「ほっ。なんだ……って、ちょっと待ってください。
別にサドルなんて盗んでいませんよ?」
「しかし確かにDNA名字分析班によると、
この犯人は間違いなく佐藤太郎であると出ています」
「それ別の佐藤太郎さんでしょう!?
同じ苗字がこれだけ密集してるんだから、同姓同名もあるでしょう!?」
「なるほど……。ではあなたの個人IDを見せてください」
「個人ID?」
「警察のデータベースと照合します。
我々の探している佐藤太郎なのか。
それとも別の佐藤太郎なのかを識別できます」
「ああそういうこと。わかりました、それじゃーー……」
個人識別IDカードを渡す手が止まった。
自分は佐藤太郎だが、ID照合されたら自分の真の名字がバレる。
そうなればこの特権は剥奪される。
「や、やっぱり、個人IDは……ナシで」
「どうしてですか? あなたが犯人では無いんでしょう?」
「当たり前でしょ!!」
「じゃあ個人IDを照合させてください。あなたの罪も晴れます」
「嫌です!!」
「なんでだよ!!」
「俺は……俺は佐藤太郎だ!! なんといおうと佐藤太郎なんだーー!!」
こうしてサドルを盗んだ罪で逮捕された。
特権居住区ではどんな罪でも「五姓の面汚し」として厳しく罰せられると知った。
明日には死刑が行われるらしい。
そのとき、どっちの名字を名乗るかはまだ考えていない。
「五姓特権」の選ばれし名字たち ちびまるフォイ @firestorage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます