第2話

茉莉は近くのコンビニまでタクシーでとめてもらい、買い物してからアパートに辿り着くと、同じくアパートに帰宅してきたであろう隣人がちょうど鍵を開けようとしている。

その隣人は先程まで一緒だった流風だった。


「もしかしてここがあなたの家ですか…?」

「はい。平野さんは?」

「私もここに住んでて奥の角部屋です」

お互い、驚きを隠せなかった。

「すごい偶然ですね!こんな奇跡みたいなこと本当にあるんだ!」

「そうですね」

都会だからか時代だからか昔と違い、ご近所付き合いはしなくなったので同じアパートだからと挨拶はしていなかった。

誰か住んでるな〜レベル。


「今、タクシー代返しますね。家に少しあるんで!」

「結構ですよ」

申し訳なさそうにしていたので「人気声優さんになった時に返してくださいね」と言ってひいてもらった。

遅い時間なため、この日はこれで終わった。



そして週末の日曜日。

茉莉の可愛い可愛い妹の花灯がやって来た。

花灯と母親は隣の県に住んでいて、都心に住む茉莉のもとに時々やってくる。

理由は茉莉に会いたいからではなく、アニメイベントやらコラボカフェやらが都心に集中しているから。

イベントの日は泊まっていく。

今日は花灯がハマっているアプリゲームのオンリーショップへ行った帰りについでに寄ったという感じだ。


「いらっしゃい。お目当てのグッズは買えた?」「うん!お姉ちゃんのところでランダムグッズの開封式をしちゃおっかな〜って。あ・カフェオレよろしく〜」

「はいはい」

ちゃっかりしている花灯を部屋に招き入れる。

花灯は購入した缶バッジやらアクスタやらを「はぁ〜尊いのぅ、尊いのぅ」と呟いていた。

ランダム缶バッジに「透くん透くん透くん透くん透くん透くん〜〜…」とお祈りタイムをしながら開封。

茉莉はキッチンで微笑ましくみていた。

茉莉が自立してから母親の負担は多少は楽になり、余裕ができた。

花灯のおこづかいも増え、おこづかいの範囲でオタク活動を楽しんでいる。

茉莉には夢とかハマっているものが見つからないので花灯が時々羨ましくなる。

だから花灯には声優志望の夢を諦めてほしくなかった。


「あああっ!ぶ、物欲センサーが反応しちゃったああっ!透くんんっ!」

どうやらお目当ての「透くん」というキャラはでなかったようだ。

「残念だったね」

カフェオレを渡すと悔しいのか悲しいのか、ちびちびと飲んでいた。

その時、ピンポーンと家のインターホンが鳴る。ドアスコープを覗くと隣人の流風だったので玄関ドアを開ける。


「こんにちは。この間のお礼にと昨日、地方イベントに行ったのでお土産をお持ちしました」

「わざわざありがとうございます」

流風が持ってきたのは名物のお菓子。

全く気にしていないのになんて律儀な人なんだろうか。

花灯が顔を覗かせる。


「ああああっ!!片霧流風だああっ!」

叫ぶ花灯に茉莉と流風はキョトンとした。

「どうして片霧くんがお姉ちゃんの部屋を?まさかお姉ちゃんの恋人!声優の彼氏なんて最高!汚い部屋ですけど入ってください〜〜」

花灯の押しに負けて流風は部屋にお邪魔することになった。

お茶を出し、落ちついたところで聞いてみたところ、片霧流風(かたぎり・るか)というのは声優としての芸名らしい。

流風は花灯がハマっているアプリゲームにも出演しついて、花灯の推し「透」というキャラクターボイスを担当している。

「ほら、お姉ちゃん。流風君のウ〇キでこれがSNSだよ」

そこには誕生日や血液型、声優を目指したきっかけなどが書かれていた。年齢は23歳と茉莉より年上だった。

思わぬ形で隣人のことを知ってしまう。


「お姉ちゃんとはどう知り合ったんですか?お姉ちゃんのどこが好きなんですか?」

「だから付き合ってないから。花灯、落ち着きなさい」

グイグイと遠慮のない花灯に流風は困っている。

「平野さんとは数日前に困っていた所を助けてもらったんです。まさか隣人とは思いませんでしたけど」

「本当に驚きましたね」

「なにそれ運命じゃない。付き合えって神様が言ってるんだよ」

声優の知り合いが欲しいのかやたらしつこい。


「これってオンリーショップのグッズ?」

流風も困ったの花灯の横に置いてあるものに気がついた。

「はい。でも透くんのランダム缶バッジでなくて……」

「俺のあげますよ。事務所の後輩がオンリーショップに行ったらしくて推しじゃないからって貰ったのがあるのでよか…」

「お願いしますっ!よかったらお昼ご飯どうですか?」

花灯は流風の言葉をさえぎった上に勝手にランチまで誘うとは…作るのは茉莉なのに。


「いいんですか?」

「ええ。オムライスが嫌いじゃなければ」

「ありがとうございます!」






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