第6話

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『配信者、ダンジョン突入中。【コメントで攻略】』


『塵も積もれば山となる』



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「はーい、どーもー。本日も始まりました、ダンジョン散歩配信。

 今日はちょっと“遠足気分”でやっていきます!」


リュックの中にはカメラ、バッテリー、そして──

スーパーの詰め合わせお菓子セット。


「配信って、気合い入れすぎると疲れるからさ……今日はもう、のんびり行こう。

 だって見てよこの第一層──名前、“塵も積もれば山となる”だぜ?」


辺り一面、ちっちゃなゴミみたいなスライムがピョコピョコ跳ねてるだけ。

背景もただの原っぱ。BGMもない。


「完全に空き地。しかも昼の。」



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だが、油断したそのとき──


ザシュッ、プルン……!

草むらの向こうから現れたのは……


「……なんだあれ。ぷるぷるした……狼耳のやつ……?」


スライムの体にフサフサの狼耳。

目はくりくり、ぷるぷる震えながら、じっとこっちを見ていた。



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> 「え、かわいい」

「なんだこのもふスラ」

「新種? 実装されたばっか?」

「ぴくぴくしてるw」





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「……おーい、おいでー?」


俺が手を振ると、ちょっと戸惑いながらも“ぷるっ、ぷるっ”と近づいてくる。


「まじで来た!? てかおまえ、なんか懐っこくない?」


そっと撫でてみた。

すると──


「ぷぅっ!!」と声にならない鳴き声をあげて、ピタッと寄り添ってきた。


「おい、これペット枠じゃねえのか……!?」



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> 「かわいいwww」

「これ切り抜き確定案件」

「むしろこの層で癒された」

「“ぷぅっ!”で腹筋やられた」





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「よし、お前に……これやるよ」


俺はリュックからチョコビスケットを取り出し、一欠片そっと差し出す。


「……ほら、ちょっとだけだぞ?」


パクッ。

そして──


「ぷわぁっ!!」(全力で喜んだらしい)


「お前……声の音程が毎回謎すぎるだろ……」



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> 「“ぷわぁっ”www」

「謎ボイスかわいい」

「なんか飼いたくなってきた」

「この子の名前決めようぜ」





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「……あれ? おい、お前……ずっと付いてきてない? いや、帰れよ! 配信だから!」


狼スライム(仮)は、嬉しそうにビスケットの袋を見上げながらぴとっと俺の脚に寄り添っていた。


「……いや、もういいわ。今日のゲスト、お前な」



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その日の夜──


【切り抜き動画:『狼耳スライムにお菓子あげて懐かれる配信者がこちら』】


投稿3時間で5,000再生


コメント多数:

 >「癒しの極み」

 >「新たな推し登場」

 >「ぷわぁっが最高」

 >「このシリーズ化してくれ」




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