贄のダンスは神をもおとす

おすこ






その村には習わしがあった。




村は背後を山に、前方を広い平野に囲まれていた。

平野には水田が連なり、コメなど穀物が作られていた。

村は豊穣していた。


しかし、悩みがあった。

実り豊かな村は、絶えず悪霊に襲われた。

村は祟られ、田畑は枯れていった。

山に住む火ノ神様が怒り、悪霊たちを遣わすのだとされていた。

開闢よりこの地に住まう神は、人が栄えるのを良しとしなかったーーーー皆そう恐れていた。


村は火ノ神様と、ある取り決めをした。

それは毎春、村の若く美しい娘を贄として差し出すことであった。



贄は、神炎に焚べられた。

苦しみ身を悶えさせながら、死ぬまで山を駆けずった。



その姿は恐ろしくも美しい。

まるで、火を纏って踊るように見えた。

故に贄は、『舞焔(マイホムラ)』と呼ばれていた。



以後、村には安寧が続いた。








今年も、春がやってきた。

火ノ髪様に贄を捧げる季節である。


この年の贄に選ばれた『娘』は、木箱の中に寝そべっていた。

木箱の中は真っ暗だった。

蓋がされ、何も見えない。


木箱はガタガタと揺れていた。

村の男が数人、木箱を担いで山を登っているからだった。

木箱は山中にある、磐座へと運ばれつつあった。


磐座とは一対の巨石である。

習わしではその間に、火ノ神様が現れるとされていた。


『娘』は緊張していた。


紅い細麻布の衣に包まれた身は、震えていた。

結い髪に巻かれた宝冠が、木箱に当たって乾いた音を立てた。

『娘』は珠飾りのある胸元で、強く拳を握った。



「俺が……絶対にやってやる」



『娘』は、男だった。



彼の名はカグナ。

村の少年だった。










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