第4話
就職先の会社から手伝いに大勢来てくれた。
社長までも足を運んで、弔いを手伝ってくれた。
葬儀は始まってしまえば、あっという間に終わってしまう。
俺は赤ちゃんの為に、兄ちゃんと菜々美さんの遺骨を使って、ダイヤモンドのネックレスをオーダーした。
赤ちゃんに本当の両親の話をするときに、渡してあげようと思った。
会社の社員は弔いに来てくれたが、香典は受け取らなかった。
そうして、俺は父ちゃんの遺言のように、会社を畳もうと思った。
だが、社長がこの会社を下請けの会社にするのはどうだ?と俺に聞いた。
嬉しい話だ。
「よろしくお願いします」と頭を下げると、「ただし、遺品整理を至急してくれ」と言われた。
寂しいが「はい」と答えた。
俺の手伝いに、篤志を指名した。
「会社は大塚電気株式会社の下請け会社になります。不満がある方は、辞めていただいても構いません」
従業員はホッとした顔をした。
「新井君、会社は新井君の名義だ。社長は新井君だ」
「俺は最先端の仕事がしたいです」
「会社から信頼の置ける社員を住み込みで働かせる。その為に部屋を綺麗にして欲しい」
「分かりました」
「滝川君を手伝いに置いていく。早めに片付けてくれ」
「はい」
社長は俺に気を遣ってくれたのだろう。
葬儀の翌日、納骨をした。
それから部屋の片付けをしていく。
家具、食器など使える物は残してもいいと言われた。
大切な物、現金などは回収して、洋服は売るといいと言われた。
大切な物は多すぎる。
思い出もたっぷり残っている。
工場は今まで通りの仕事をしている。新たな仕事も受けている。
これからは、少しずつ変わっていくのだろう。
遺品整理をしながら、篤志と赤ちゃんの名前を考える。
「俺は菜々美さんの名前を使いたい」
「菜都美はどうだ?一文字替えただけだぞ。漢字変換は、都を書くんだ」
「菜都美か、うんいいかも」
名前は簡単に決めてしまった。
捨てられない荷物は、篤志の家の部屋に置かせてもらった。
いよいよ菜都美を迎えに行く7日目になった。
篤志と一緒に行って、育て方を看護師さんに教わる。
おしめ交換、ミルクの作り方、哺乳瓶の消毒の方法、お風呂の入れ方・・・初めてすることも多く、戸惑っていると、冊子をくれた。
説明されたことが書かれているらしい。
子供の病気についても書かれている。
予防接種が大変なので、注意してくださいと言われた。
事故で紛失していた母子手帳も新しい物をもらって、産まれてからの成長が書かれていた。
冊子の名前は、母親である菜々美さんの名前を書いて、父親の名前は兄ちゃんの名前を書いた。
菜都美を抱いて、篤志の家に寄って、菜都美を叔母さんに預けて、菜都美のいる物を買いに行く。
菜々美さんが、準備していた物でほとんど足りたけれど、おむつとかお尻ふき、ミルクは必要だ。
「あっちゃん、助かった。一人ではできなかった」
「気にするな。俺が真の立場なら、やっぱりできなかったと思う」
「そうかな?あっちゃんは冷静だから」
「ところで、寮で暮らすのは無理だと思うけど、俺のマンションに来るだろう」
「いいの?赤ちゃんって、夜泣きするんだろう?赤ちゃん禁止とかないのか?」
「赤ちゃんはペットじゃないから、禁止じゃないと思うよ」
「それなら、俺、あっちゃんと暮らしたい」
「決まりだ。後でやっぱりとか言うなよ?」
「うん」
赤信号で車が止まると、篤志は俺にキスをした。
照れくさい。
篤志はカナダの支社に派遣されていたので、会うのも、本当に久しぶりで、触れてもらえるのは本当に嬉しい。
照れくさくても、触れて欲しい。
「髪、伸びたね」
「美容院に行く時間がなかったんだ。どこかで切ってこようかな」
「そのままでいろよ。俺、真の髪型気に入っているんだ」
「伸び放題の髪だよ?」
「それなら、俺が少し、切ってあげる」
「ありがとう」
ポンポンと頭を撫でられて、嬉しいやら照れくさいやら。
恥ずかしくて、両手で顔を覆った。
「どうしたんだよ?」
「好きだから」
「顔を隠して言うなよ」
「うん」
顔を覆っていた手を外すと、篤志が笑った。
「顔、真っ赤」
恥ずかしい。
やっぱり顔を覆った。
「暫く、冬眠するから、触るなよ」
俺は小さな声で篤志に言った。
篤志は吹き出して、それから笑った。
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