幼馴染みの彼と彼
綾月百花
第1話
俺、新井真は今日、大学を卒業した。
充実した学生生活だった。
卒業式の今日、久しぶりに恋人が大学まで祝いに来てくれた。
大学の教授達も大喜びしていた。
天才と言われていた滝川篤志を追いかけて、俺は学会での受賞を競い合った。
負けず嫌いな性格が幸いしたのか、受賞は俺の方が5つ上だ。
俺達は二歳違いの幼馴染みの恋人同士だ。
俺は茶髪でロン毛だ。
茶髪は地毛だ。
美容院に行く時間とお金がないから、伸びた髪を後ろで一つに結んでいる。
髪を伸ばしている理由の一つに、女顔に見える顔を隠している。その反面、篤志はスッキリとしたイケメンだ。
黒髪に綺麗に整えられたヘアースタイル。ダークグレーのスーツを着ている。
学生の俺と違って、お洒落なのだ。
俺は今朝までかかって、研究室の電気配線を綺麗に整え、長く使った大学のパソコンを初期化してきた。
研究用のロボットのプログラムの最終チェックをして、次の研究者が分かりやすいように、説明書のファイリングをしてきた。
美容院に行く暇もなく最後の最後まで、教授に雑務を押しつけられた。
教授は俺を大学に残して講師にしたがったようだけれど、俺の就職先は、この学科に入る前に決めていた。
大好きな篤志と同じ会社に入る事だった。
大手の会社からスカウトも来ていたが、俺が選んだ会社は、篤志と同じ大塚電気株式会社最先端プログラミング課だ。
篤志が紹介をしてくれたお陰で、ノー試験、リモート面接で就職試験を終えた。
最後は、会社の見学込みで、社長と軽い雑談の面接をした。
この就職難の時代だが、努力が実を結んだ、
俺は大学生時代遊んではいなかった。飲み会、合コンは行ったことがない。研究と論文作成に費やし、各国へ飛び立ち、論文の発表もしてきた。
大学時代の『遊』は篤志と過ごした時間と俺より先に卒業した篤志との通信だけだった。
彼女はパソコンと言われ続けた大学のパソコンともお別れして、俺のノートパソコンを鞄に入れて、くたびれたスーツを着て、卒業式が行われている講堂に行った。席に着く前に名前を呼ばれて、卒業式代表の発表も無事に終えることができた。
実家からは両親と兄夫婦が俺の晴れ舞台を見に来てくれた。
俺の実家は静岡だ。海の方ではなく富士山の麓の辺りだ。富士山が噴火したら、一家皆、死んでしまうかもしれないと、母が笑いながら話していた。
父は町工場を営んでいる。兄が父の工場を引き継いだ。だから、俺は自由にさせてもらっている。
両親や兄夫婦に、いつも感謝している。
大学もドクターまで取れた。
大学院に通って、優秀者に与えられる奨学金をもらっても、食べていくのはキツい。
アルバイトをしていては研究ができないので、どうしても生活費を送ってもらわなくては生きていけない。
それに、学会に出るために、他国に渡るお金は全額は大学から出されない。家族の補助なしでは、今の俺はないだろう。
就職したら家族に借りたお金を返していこうと思う。
「篤志君、真を頼むな」と父ちゃんが言った。
「子供の頃から、篤志君に付き纏って、ごめんなさいね。嫌なら嫌だと言ってちょうだいね。真は察することが苦手だから」
「母ちゃん、俺、察することくらいできるよ。会社が俺をスカウトしてくれたんだ。これから稼ぐから。これから恩返ししていくから」
「いいのよ。それより早めに彼女を作ってお嫁さんをもらいなさい。孫を抱かせてちょうだいね」
俺は心の中で、両親と全ての人に謝罪した。
俺が好きなのは、昔から篤志だけだ。ここまで追いかけたのは、篤志と並びたいからだ。
まだカミングアウトはしていないけれど、社会人になって、しっかり働いている姿を見せてから、きちんとカミングアウトしよう。
篤志が家族で記念写真を撮ってくれた。
兄ちゃんの隣に、美しい奥さんがいる。お腹がはち切れそうに膨らんでいる。
もう直ぐ産まれると兄ちゃんが言っていた。
菜々美さんは俺より若い。まだ成人式を迎えたばかりだ。
兄ちゃんは目の中に入れても痛くないほど、菜々美さんを愛している。その愛の結晶がもう直ぐ産まれるのだ。
「父さん、母さん。そろそろ帰るよ。菜々美が寒そうだ」
「連れてきてくれてありがとうな。真、元気でな。篤志君も元気でな」
「たまには帰っておいで。真の好物、作ってやるからね」
「父ちゃんも母ちゃんも、今日は来てくれてありがとう。身体には気をつけて。兄ちゃん、菜々美さんもありがとう。菜々美さんの赤ちゃんが産まれたら、会いに行くよ」
「いつでも帰ってこい」と兄ちゃんは言って、菜々美さんの肩を抱いた。
「いくぞ」と駐車場に歩いて行く。父ちゃんと母ちゃんと俺はハグした。普段はしないけれど、今日はとても嬉しかったのだ。母ちゃんは照れていたけれど、嬉しそうだった。
「また」
「ああ、まただ」と父ちゃんは答えて、母ちゃんを連れて去って行った。
「真、この後、何かあるのか?」
「飲み会に誘われたけれど、俺、徹夜明けだから帰るよ。大学はずっとあるし、ここにも来る用事があると思うから」
「それなら、一緒に食事をして帰ろう」
「うん」
篤志は俺の卒業式に合わせて、カナダから帰ってきてくれた。就職してから二年海外赴任をしていたのだ。
またカナダに行けと言われたら、俺も付いていくつもりでいる。
毎日、チャットしていても離れていた時間は長すぎて、寂しい。
寂しかったのは俺だけじゃなかったんだね?
俺の肩を抱いて、駐車場に向かった。
食事の後、二人のマンションに戻って、一緒に風呂に入って、久しぶりに抱き合った。
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