第6話遠征の始まりです

 翌日。


 皆が用意してくれた野営道具をアイテムボックスに入れた私は、邸宅の前で全員を前にして、




 「メアリー・プル、メイニー・プル。家の事は頼みましたよ」




 まず残留組の二人に声をかけた。




 「かしこまりました」




 二人の声がシンクロして私に返ってくる。


 それを確認して、




 「それじゃぁ、行きましょうか」




 残りの三人に出発の合図を出した。




 「はい」




 こちらもシンクロして、返事が返ってくる。




 「行ってきます」




 そう言って、私達は邸宅を後にした。


 百メートルほど進んで一度振り返ると、メアリー・プルとメイニー・プルが私に向かって深く一礼をする。


 手を挙げてそれに応えた。


 そして、再び前を向く。


 彼女達にも、良い土産を持って帰らないと、な。


 私は、メルト・プルに続いて森の中に足を踏み入れた。


 そこからは、無言の時間が始まる。


 移動は木の枝から木の枝へ、足場の悪い雑木林は避けて通った。


 そっちの方が見通しも良い。


 静かに、移動していく。


 メルト・プルが私に手信号で進路の合図をするだけだ。他のホムンクルスは念話ができるので、信号を送る必要性さえない。


 本当に、彼女達は音さえ立てない。


 私が、たまに細い枝に足をかけてガサリと音を立てる位だ。


 大したものだ。


 私も身軽な方だとは思っていたけれど、事、隠密行動という点においては、彼女達には適いそうもない。


 十数分。


 と、メルト・プルが左に進路を変えるように指示してくる。


 進路を左に変えると、右手にオークが三匹ほど居るのがチラッと見えた。


 どうやら、目的の魔物以外に用は無いらしい。


 また、今度な。


 私はメルト・プルの背を追った。


 しばらくは、そんな感じで先を急ぐ。


 まあ、木の上に居る魔物に関しては避ける事も難しいようで、何匹かをメルト・プルが仕留めていたが。でも、魔石の回収はしなかった。


 やがて。


 メルト・プルが大きな樹を見つけて、そこで停止の合図を送ってきた。


 小休止のようだ。


 樹の下に広がる地面に降りる。




 「お疲れ様です」




 「ええ」




 「体力的に、この速度で問題ありませんか?」




 「大丈夫ですよ」




 今からでも、ブルーオーガを狩りに行ける位ある。




 「ええ、全然大丈夫」




 「では、このペースを維持しますね」




 それで大丈夫だ。


 問題無い。


 アイテムボックスから水袋を四つ取り出し、自分で一つ取り、三つをそれぞれに渡した。


 それにしても、深い森だな。


 こんな所に、ブルーオーガは生息しているのか?




 「いえ、森の奥の方は樹が大きくなっているので、樹と樹の間隔が広いのです。ブルーオーガは主にそこに生息しています」




 あ、そうなんだ。


 ここみたいに、下に邪魔な茂みがある訳じゃないんだ。


 まぁ、それはそうか。


 人間の三倍近い身長があるって言ってたもんな。そういう所じゃないと、生きていけないか。




 「そのせいで、見通しが良いので、奇襲を仕掛けるという事も出来ないから、狩りをしにくいという難点もあるのです」




 「正面から戦うしかないって事?」




 「そうなります」




 まぁ、奇襲は本領じゃないから、そこは良いんだけど。




 「戦うと決めたら、逃げられない?」




 「逃げるのは簡単です。ブルーオーガは鈍足ですから、私達の脚があれば、逃げる事も可能です」




 「じゃぁ、どうして狩れないのさ」




 「硬いのです」




 「あと、再生能力があります」




 なるほど。


 ブルーオーガは、そういう魔物か。


 なんでも、メアリー・プルやメイニー・プルやメルト・プルによる攻撃だと回復の方が早くて倒せず、とはいえ、ブルーオーガの攻撃は当たらないという、双方にとって何のダメージにもならない攻防が続くのだとか。


 そういうボス、居たな。


 そうだな。


 そういうボスに挑む時、レベル的に、100位離れていたら起きる現象だ。


 私はカンストレベルのレイドボスを倒しに行ってたけど。


 物には例外はある。


 という事は、ブルーオーガのレベルは620位になるのか。メアリー・プル達のステータスはあのレベルでバランスの取れた物だったから、精々その程度だろう。


 ま。


 いけない事は無いか。


 致命傷になる事もある以上気は抜けないけれど、攻撃を受けない事を前提に相手をしていたら、そうそう滅多な事も起きないだろう。


 私の知るブルーオーガは攻撃も遅かったし。




 「ブルーオーガの攻撃は、やはり遅いのですか?」




 「普通の騎士や冒険者には速いかもしれませんが、私達を基準にすれば、はっきり言いますと、遅いです」




 レベル500帯で遅いと言うのなら。


 大丈夫だろ。


 命を懸ける以上、緊張は必要だけどね。


 致命傷だけは避けないといけない。




 「おそらくですが、問題なく倒せると思いますよ」




 「アイリ様の槍は、私達の攻撃よりもはるかに強力ですから」




 そりゃ、力に振りまくったステータスになってるからね。


 装備も彼女達とは比べ物にならない。


 レベル500位の彼女達と比べても、比較にならない程の重いダメージを与えられる事だろう。


 レベルの概念は無いらしいけれど、ステータスには反映されているらしいから。


 これは、オークで検証済みだ。


 レベル150程のオークとレベル200のオークだと、強さに明らかな違いを感じると言っていたから。




 「アイリ様、休憩は取れましたか?」




 「貴女達こそ、大丈夫なのですか?」




 私よりステータスが低いから、体力的にも劣ると思うのだが。




 「問題ありません」




 揃って、そう答えが返ってくる。


 なら、出発しようか。


 水袋を回収し、私は軽くストレッチをする。


 そして。


 助走をつけて大樹の広場を離れた。




 「このペースでいくと、どの位で着くんですか?」




 「明日の昼前、になりますね」




 という事は、昼頃にブルーオーガを狩って、夕方にはブルーオーガの生息地を離脱する感じの予定でいけば良いのかな。


 上手くいけば、だけど。




 「大丈夫ですよ。ブルーオーガが何処にいるのかは分かっていますので、狩った後にすぐ死体を回収して離脱すれば、夕方前には生息地を抜ける事が可能です」




 「安全に野営をする事が可能ですよ」




 「じゃぁ、その予定で」




 「はい」

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