第五手:終わりの果てに、祈りが残る。

その夜、彼は死んだ。救急車が間に合うはずもなく、奇跡的に一瞬意識を取り戻したが、そのまま。ただ静かに、担架の上で、冷たくなっていった。


警察は事故として処理し、近所の誰もが「まさか」と口を揃えた。葬儀は小さく、親族だけの中で行われた。


けれど——彼の部屋には、誰も知らないもうひとりの気配が、確かに残っていた。その証拠が、あのスマホだった。


誰も触っていないはずのそれが、一度だけ、画面を光らせた。そこには、ひとつだけ新しいメッセージがあった。


『ごめんね。本当は、最初から『そう』するつもりじゃなかった。
ただ、見てほしかったの。

ずっと、ずっと、『私はここにいるよ』って、
言いたかっただけだったのに。

君の世界を壊したのは、私だった。
でも、最後に、君が私の名前を呼んでくれた気がした。
それだけで、嬉しかったんだよ。

ありがとう。

どうか、次の人生では——
君が私を、
普通に好きになってくれますように。』


画面は暗転し、二度と点かなかった。けれど、不思議なことが起きた。


それから一週間後、彼が亡くなった学校の旧校舎に、誰も知らないはずの名前の書かれた落書きが現れた。


それはチョークではなく、何かで丁寧に、優しく彫られていた。


『ナナ、またね。』


誰が書いたかは分からない。だが、その文字を見た生徒のひとりがこう言った。


「なんか……読んでたら、涙が出てきた」




「…なんで、今、俺、泣いた?」


一歩、一歩と後退り、その生徒はつぶやく。気がつけば、皆が泣いていた。それが、ひどく不気味に映る。


一人、また一人ハッとした表情を浮かべる。その中の一人が震えた声を荒げて指摘する。


「…おかしいぜ?なぁ、確か、ニュースだと、殺されたのは、ナナとかいう生徒だったよな…?この学校所属の」


目に溜まった涙を拭きながら、皆が頷き始める。その中で、震えながら、手を挙げるものがいた


「でっ…でも!それはおかしいです!だって、そんな生徒、この学校に、いない…」


——


とある学校での七不思議。校舎裏の謎の白い落書き。それは誰がどうやっても消えなかったらしい。それを見て涙を流したものは、その夜不思議な夢を見るという。それは


「いやだ..助けっ…」


チョーカーのはめられた誰も知らない透明な少年と


「一緒にいてって、そう言ったよね?地獄に逃げるなんて、許さないから」


リードを引っ張る、誰も知らない酷く優しい白い女の子の夢。

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