第10話 VS ドラゴンワーム

ドラゴンワームによって空高く打ち上げられた私達は危機に瀕していた。


このまま落下すれば全員ただでは済まない。

下手をすれば私以外全員死んでしまう可能性もある。


スキルの存在により、死ぬことがないと考えていた私はいち早く仲間の状態を確認すべく視線を上下左右に移していく。


私より上空にはレアードとリリィが飛ばされており、同じ目線の先にはカイン。

下に目を向けると、エイトとクトリが飛ばされていた。

皆、同じことを考えていたようで、視線が合わさり互いに頷き合う。

一先ず、仲間の無事は確認出来た。

私は小さく息を吐き、一安心した。


しかし、この状況の中、まずはどうやって着地するか。

ドラゴンワームはようやく着地し、地面に潜り始めたところだ。

大きな音が響き渡り、同時に砂埃が舞い、掘った穴を隠している。


どこから現れるか分からないドラゴンワームに警戒していると、上から声が聞こえてきた。


「エイト!」


聞こえてきたのはレアードの声。

エイトはレアードの声を聞いて、すぐに行動を開始する。

エイトが腕を振り上げると、私の体が重力に逆らうように浮き上がる。


風で私の体を押し上げている!?


目を向ければ、全員が一時的に風により空中で停止しているように止まっている。


「レアード!」


エイトが声を上げる。


「分かってる!」


今度はエイトの声に反応してレアードが動き出す。

レアードが下に手をかざすと、地面が唸りを上げ始める。

何をするのかと注視すると、地面の一部が円状にひび割れ始める。

そしてひびに沿って地面が割れ、その部分だけが上空に向け、真っ直ぐ伸び始める。

伸び上がった地面は数メートルのところで止まり、私達が安全に着地する為の足場となった。

円状の地面は全員が安全に着地できるほどの広さを持っている。

エイトのスキルが切れ、私達は皆着地する。

レアードは皆に視線を向けたのち、地面に手を置いた。


なんとかバラバラにならなくて済みそうね。


安心したのも束の間、大きく地響きがしたため、私達はしゃがみ込む。


まさか!


私達が声を掛け合う前にドラゴンワームが動き出す。

ドラゴンワームは地面から飛び出してくると同時に、私達を食べようと口を大きく開け向かってくる。

ドラゴンワームがすぐそばまで迫る。


間に合わない!


回避が間に合わない、と目の前まで迫ったドラゴンワームに存在に目を見開き、身体を硬直させる。

すると急に私達が着地した地面が降下を始める。

ドラゴンワームを見上げる形で回避に成功する私達。


ドラゴンワームは曲線描くように空中を移動すると、やがて地面に潜り姿を消す。


地面が完全に降下し終わり、ようやく地に足をつけることが出来た。

しかし、安心していられない。


私は『身体強化』を使用し、すぐに回避行動を取る。

私が地面を蹴ると同時に、地面がひび割れ崩れていく。

そして、現れるドラゴンワーム。

その瞬間、私の視線とドラゴンワームの視線が交わり、敵の姿を明確に捉えた。


体勢を立て直すと、周囲に目を向ける。

レアード達もエイト達も全員無事であった。

先程の一撃を全員上手く躱わせたみたいだ。


私は一旦レアードの元へ駆ける。

同じ考えの様で皆レアードの元へ集まってきた。


「なんとか体勢を整えることにゃあ成功したが、これからどうするか・・・・・・」


レアードは頭を掻きながら、表情を歪める。


「逃げたいところだけど、逃がしてはくれないでしょ?」


カインの発言に皆頷く。


「しかし問題は僕たちの攻撃があれに通るかということになるな」


私達は今まさに地面から顔を出し始めたドラゴンワームに目を向ける。

ドラゴンワームは再び地面からの奇襲を仕掛けるのではなく、離れたところから顔を出して、私達の出方を窺っている様に見える。

ゆっくりと体を地面から出すことで、改めてその大きさを再認識する。


「とにかく、攻撃してみないとな。お前ら、あいつの攻撃は範囲も速度も威力も桁違いだ。まともに食らえば一発であの世行きだと認識しろ!決して早まるなよ。必ず全員で生きて帰るぞ!!」


「「「おお!」」」


「「ええ!」」


私は返事をしてすぐに動き出す。


まずは攻撃が通るのかを確認しないと。


私は真っ直ぐドラゴンワームに向かっていく。

あのバカ!という声が背後から聞こえてくるが、無視して駆ける。

みんなに負担はかけられない。

多少のリスクを背負ってでも私が倒す!


ドラゴンワームがようやく動き出す。

体を伸ばし口を大きく開ける。


私は地面を蹴り、上に跳躍することで躱そうとする。


はっ!


しかし、ドラゴンワームも伊達にSランクではない。

体を捻らせ強引に方向転換してくる。

そして、今度こそ食べようと口を大きく開けて、顔を上に上げる。


「無茶しやがって!」


私は鎌を構えて上手くいなそうとするが、突如地面が大きく上下し地形が僅かに変化する。


ありがとう、レアード。


心の中で感謝したまま、私は鎌を振り下ろす。

しかし、鎌がドラゴンワームを切り裂くことはなかった。

突然背中に大きな衝撃を受ける。

勢いよく地面に叩きつけられたことにより、血反吐を吐き、呼吸困難に陥る。


な、何が・・・・・・。


口から血が流れるまま背後に視線を向けると、ドラゴンワームの尾がグネグネと主張するかの様に動いていた。


尾で叩きつけられたのね・・・・・・。


状況を飲み込んだ私はすぐさま立ちあがろうとするが、ドラゴンワームがすぐさま飛びかかってくる。


くそっ!


動くことが出来ない私にドラゴンワームの無情な牙が突き立てられる。

その瞬間、視界が黒く覆われ、次の瞬間には後方に叩きつけられていた。


なんとか起き上がった私は、それが土であったことに気づいた。


どうやら、またレアードに助けられてしまった様だ。


レアードが私の前に立つ。

手を振り回し、地形を状況に合わせて操作していく。

カインとリリィはその地形に合わせて、移動と攻撃を繰り返していた。


「はっ!」


「やっ!」


カインとリリィは巧みな戦術でドラゴンワームを翻弄していた。

時には注意を惹きつけ、時には死角から奇襲を仕掛け、とドラゴンワームに確実にダメージを与えている様に見えていた。

しかし、カインとリリィの表情は次第に険しさを増していく。

エイトと風で遠距離攻撃を仕掛け、クトリが全体のサポートをする。

流石のドラゴンワームも次第に動きが荒々しくなり、苛立っている様に思えた。

そして、ドラゴンワームが尾を振り回し、地形を更地に変えたところで、カインとリリィは一度引き、レアードの隣に並んだ。


「どうだ?」


レアードが声をかける。


「ダメね」


「右に同じ」


リリィとカインが続けて言う。


「私のスキルを使っても貫けない。残念だけど、今の私じゃ、傷一つつけられないわね」


「私もほぼ同意見だ。傷は付けられるけどそこ止まりだ。鱗が硬すぎて内部まで届かない」


「ちっ!」


「けど、もしかしたらという策がないわけじゃない」


「あぁ?どういうことだ?」


「それは・・・・・・」






⭐︎






私だけ役に立ってない・・・・・・。


みんなの戦いを見て、私の胸の中に一片の陰りが生まれる。

それは私が足手纏いになっているということ。

私はいつも助けられてきた。

だから今度は私が助けないと。

そう思っていたのに気づけば、私の方が足手纏いになっていた。

余計な労力を割かせて、彼らのピンチを煽ってしまっている。


やっぱり、私は疫病神なんだ。


あの日からそう。

一緒に組んでくれた冒険者を死なせてしまった時から、私は変わらず味方を苦しめる疫病神。

やっぱり私は1人でいるべきなんだ。


下を向き、体を抱きしめながら、必死で自分を保とうとする。


そんな時であった。

自分を取り巻く世界が真っ暗に染まろうとする中、突如、一筋の光という名の声が聞こえ、私を現実に帰らせた。






⭐︎






「カーフェ!おい!カーフェ!」


!!


私は顔を上げ、レアードに目を向ける。

レアードの目からは心配そうな、それでいて怒っている様にも感じた。


私はついつい下を向いてしまう。


「前を向け!」


突如頬に感じる衝撃を受けて、自分がビンタされたことを悟った。


「レアード・・・・・・」


「こんな時に落ち込みやがって。どうせお前のことだ。私と組んだせいで、とか見当はずれなこと考えてんだろうがよ!この際はっきり言ってやる!テメェがそんな顔する方がよっぽど迷惑なんだよ!!」


迷惑・・・・・・?


私は自分の顔に手を触れる。

濡れている。

辿っていくと、その正体は涙だった。

そう、私は泣いていたのだった。


「テメェの勝手な思い込みで勝手にいじけてんじゃねぇ。俺たちは一度たりとも、テメェが邪魔なんて思ったことはねぇ。俺たちは家族だ。互いに支え合う。お前がしんどい時は俺たちが支える。だから、俺たちがしんどい時はお前が俺たちを支えてくれねぇか?」


レアードが手を差し出してくる。

私にはその手が希望の様に思え、思わずその手を取ってしまっていた。


そうだよね。

私達は家族だもん。

迷惑かけて当然なんだよね。


「ありがとう」


私は今出来る最高の笑顔で返す。


「準備はいいか?」


「ええ、大丈夫よ。作戦は?」


聞いている間、視線を前に向けるが、ドラゴンワームは私たちに目を向けたまま動こうとしない。

まるで会話が終わるのを待っているみたいだ。


「俺たちの攻撃は決定打に欠ける。だから、今度はお前主体で動く。俺たちはお前を全力でサポートする。だからお前は全力で一撃で突破口を切り開いてくれ」


「分かったわ」


私の前には今3人の家族がいる。

レアード、カイン、リリィ姉。

3人とも私に目を向けて微笑みかけてくれている。

期待に応えたい。

絶対に勝ちたい!

私はそう考え鎌を強く握った。






⭐︎






私達は一斉に走り出した。

『身体強化』を使用している私が一番早い。

ドラゴンワームの視線が私に向く。

ドラゴンワームが身体を伸ばしてくるが、今度の私は違う。


「レアード!」


「ああ!」


私とドラゴンワームの間に大量の土の壁の障害物が出来上がる。

ドラゴンワームは気にせず壊しながら向かってくるが、レアードは負けじと続けて障害物を作り続ける。


「カイン、リリィ姉!!」


「任せろ!」


「任せて!」


障害物によって視界が狭まったドラゴンワームはカインとリリィの存在に気づいていない。

リリィは側面にズレ、矢を放ち、カインは直接近づき剣を振るう。

狙いは目の様だ。

両目を潰されたドラゴンワームはメチャクチャに暴れ回ろうとするが、そこにクトリが介入した。

クトリが手をかざすと、一瞬だけドラゴンワームの動きが止まる。

たかが一瞬、されど一瞬。

エイトによって空高く打ち上げられた私はドラゴンワームの遥か上空から、回転しながら鎌を振るう。

重力と遠心力で威力を高めた一撃は、見事にドラゴンワームの腹部を切り裂いたのだった。

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