Re:verse Archive(リバース・アーカイブ)

悠・A・ロッサ @GN契約作家

古医術if:私って、言わされた夜(TSエロ:閲覧注意)

現実世界。


いつもと同じ、診療所。

診察室の奥、調剤棚の整理を終えた俺は、椅子に腰を下ろしてひと息ついていた。


「……はぁ」


魔族の体は、人間とは違う。


種族ごとの生理機能や魔力体質を理解しなければ、

的確な治療などできるはずもない。

慣れてきたとはいえ、日々の診療は神経を削る。

患者の苦悶、異臭、時には魔力の漏出や痛みの共鳴まで——


ストレスがたまらないわけがなかった。


「先生、最近、顔色がよくない」


気がつけば、いつのまにか夢魔のヴェレムが傍に立っていた。

いつもと変わらぬ黒スーツ姿で、すっと眉をひそめてこちらを見ている。


「私、医療以外での“癒し”の提供も可能ですが?」

「……いや、いい。大丈夫だ」

「では——セックスでは?」


その言葉を聞いた瞬間、俺は思わず声をあげた。


「はあ!?」


ヴェレムは相変わらずの無表情だったが、

その目の奥には、確かな“興味”が宿っていた。


「……なんなんだよ、お前は」


動揺したまま立ち上がる。

けれど、ヴェレムは一歩も引かず、むしろ一歩、距離を詰めてきた。


「冗談です。もっとも——そう聞いて、心が揺れたのなら、それは立派な症状です」

「俺を“診察”するなよ……」


俺は呆れて、額を押さえた。

そのまま、ふうと長く息を吐く。


「……寝よ。もう今日は終わり。休めば治る」

「ええ、そうですね。夢の中で、ゆっくりと」


その一言が、やけに耳に残った——


***


診察室の仮眠ベッドに体を預け、目を閉じる。

微かな揺らぎが意識をさらい、沈んでいく——


——夢の中。


「んん……」


……いや、違う。

その声——自分のものじゃなかった。


喉が、妙に滑らか。

で、声が高いのどぼとけがない——?


咄嗟に下を見下ろして、息を呑んだ。


丸みを帯びた肩と、細い手首。

そして、押し当てるように揺れる胸。


「——この体は、なんだよ……っ」


目の前に、なぜかヴェレムがいた。


……だが、どこかがおかしい。


体格も、顔立ちも、間違いなくヴェレムだ。

けれど、なぜか“性別”が違っていた。


高身長で、冷ややかな金眼と白い肌。腰まで流れる銀髪。

それらは変わらないのに、輪郭はわずかに角張り、手も筋張っている。


「“ストレス解消”のための治療。貴方自身が望んだのです。夢の中で、ね」


その瞬間、頭の奥で何かが弾けた。


以前から、“夢”の中——あの妙に心地よかった感触。

誰かの手が、自分を優しく、けれど執拗に触れてきた記憶。


ヴェレムの指が、今まさに俺の顎をすくい上げようとして——


「ちょ、まっ……俺、じゃな……」

「“私”と言ってみてください」

「……っ」


その声の低さに、なぜか背筋が震えた。

まるで、逆らえない呪文のように——


「……わ、私……」


その瞬間、どこかが、決壊した。


「や、やだ……っ」


頭を振って否定する。そんな簡単に——受け入れられるわけがない。


「望みとか冗談じゃない……っ! 俺はそんな……そんな……っ」


言葉が喉の奥で溶けていく。

理性と羞恥が、甘やかな霧に包まれていく。


拒絶するほどに身体の奥が、熱を帯びて疼いていた。


その時、視線の先に、ふいに鏡が現れた。

夢の中だからだろうか、どこにもなかったはずの壁に、縦長の鏡がぽつりと立っている。


映っていたのは——


儚げな寝間着に身を包んだ、女。

その顔は自分だった。けれど、あまりにも“女”すぎて。


丸みを帯びた頬、潤んだ瞳、肩をすくめるたびにずれ落ちる細いストラップ。

ヴェレムにキスされ、目を潤ませ、蕩けた表情をして、胸を揉まれる女の姿——


「……嘘、だろ……これが……俺……?」

「かわいいですね」


耳元で囁かれ、甘い電流のような震えが背筋を駆け抜けた。

もう、否定なんてできなかった。


ヴェレムの指が、そっと脚を撫で、滑らかに太腿の内側を辿っていく。

なぞられるだけで、震えが走った。

そのまま、あの場所に触れられて——声が漏れた。


「や……っ、そんな、触れたら……あ、んっ……!」


びくびくと腰が跳ねる。

指先が入るたび、夢のはずなのに、現実よりずっと濃く、

甘い感覚が体中に広がっていく。

自分のものじゃない身体が、自分以上に正直で、感じすぎて。


「っ、は、や……だめ、やだ……っ」


嫌なのに、拒めない。

頭では否定しているのに、身体は勝手にヴェレムを求めている。

その証拠に、蕩けた熱が、彼の指を迎え入れようと——


「ほら、“私”で喘いでください」

「や……っ、やめ……あっ、あぁっ……私、っ……や、ぁ……!」


声にならない悲鳴が喉を揺らす。


涙がこぼれた。

悔しくて、苦しくて、それでも、気持ちよすぎて。


何度も突かれて、奥の奥までかき乱されて、


鏡の中の“私”が、よがり喘いでヴェレムにしがみついていた。


「ヴェレム、や……っ、そんな……壊れちゃ……っ」

「いいですよ、壊れてください。全部、私が受け止めます」


そう囁かれた瞬間、熱の奔流が全身を突き抜けた。


「あ……ぁ、ヴェレ、む……っ!」


真っ白になった意識の中、最後に聞こえたのは、

優しく、支配するような彼の声だった。


「夢でも、あなたは私のものです」


***


「……っ」


俺は勢いよく目を覚ました。

診察室の仮眠ベッド。


夕焼けの光がカーテン越しに差し込み、現実の匂いが戻ってくる。


——夢。

いや、夢だったはずだ。


けれど、胸が、熱い。

身体の芯が、まだ揺れているような気さえする。


「……はあっ」


熱を持った呼吸を整え、ゆっくりと起き上がる。

視界の端に、誰かの気配。


ヴェレムだった。

いつのまにか部屋に入っていたのだろう。

無表情のまま、デスクにコーヒーを置いている。


「お目覚めですね」

「……あ、ああ」


顔が見れない。

どうしてだ。


「夢、見ていましたか?」


その問いに、なぜか胸が跳ねた。

よく思い出せない。

でも、心のどこかが妙にざわついていて——


「……いや、覚えてない。たぶん」


そう答えながら、セレンはふと呟いた。


「……私……」


その一人称に、我ながら違和感を覚える。


「……俺、じゃなくて……?」


そっと顔を上げると、ヴェレムがわずかに——ほんの、わずかに微笑んだ気がした。


「お似合いですよ」


それが何を指しているのか、わからないふりをしたまま、俺はそっとコーヒーを口に運んだ。

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