第35話 提案とあだ名
ひとしきり会話が過ぎると、
「じゃ、話しはここまで。君たちとはおさらばだね」
小清水がそう告げた。けれど、志喜が放っておくことはない。
「ちょっと待ってよ。チコのおじいさんに島を観光した方がいいって言われてるんだろ?」
「巡ってみろってだけで観光だとは言ってないがな」
「いいじゃない、どっちでも。行こうよ、みんなで島内観光」
困ったような表情になる小清水を置いておいて
「わーい、旅行だ」
「どうすんだよ」
「私は姫様の護衛をする。それが使命だ」
喜ぶチコと、懸念する茅野に、事もなく答えるあおゆき。
「つうことは……」
茅野が小清水に視線を送る。
「あかちゃん次第だね」
志喜の言葉に一同が閉口する。視線の先の小清水があっけにとられている。
「あか……とはボクのこと?」
「そう。暁だから、あかちゃん。かわいらしいよ」
言い終わらないうちに、小清水の拳が志喜の頭部に直撃した。
「私がまるでそっちのムジナの子よりも幼くなってるだろ。別の呼び方にしろ」
「えー。じゃあ、かあちゃん」
「ボクは君のママじゃない。却下」
「じゃ、あーたん」
「却下」
「つっきー」
「却下」
「もうないよ」
「普通に呼べないのか、普通に」
「だって、愛称の方がいいでしょう?」
「だったら暁でいい」
「普通過ぎない?」
「ボクがそれでいいと言っているんだ。それにするんだ、いいね?」
「分かったよ」
その決定を聞いて、茅野が拳を鳴らしながら志喜に迫った。
「キセツ君。この中で一番付き合いが長い私が、なぜいまだに茅野と呼ばれるんだろうなぁ」
「いや、茅野は茅野だろ」
「キーセーツー。今後私のことはほのかと呼べ、いいな」
「今さら変更なんて」
「キーーセーーツーーゥー。分かったのかな、分かってないのかな?」
「分かったよ、分かった」
渋々了承する志喜と茅野のやり取りを見ていたあおゆきはふと思った。
「そう。それがあった。なぜ貴様は都筑君のことをキセツと呼んでいるのだ?」
「ああ、それか。こいつ志喜だろ。だからseasonの四季をもじってキセツってわけ、分かった?」
「いや、よく分からんが、分かったと言っておこう」
それはそれとして元の話題に戻らなければならない。
「んで、暁。いいだろ。観光」
こうなっては拒絶をしてもきっとついてくるとでも解した小清水は志喜たちと同行することにした。
「分かったよ。ただ今日はホトホト眠いんだ。明日からにしてくれ」
それは全員同意だった。朝帰りをしても誰一人怒られなかったのは、ひとえにチコの術のおかげであり、いろいろあった夜更けのため、一同は爆睡をしたのであった。
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