第14話 茅野ほのか

 車を走らせること四〇分弱で、目的地に着いた。

 鳥居の向こうに拝殿があり、普通の一軒家が隣接してある。舗装された道路から少し歩けば、すぐ田んぼがある。池の淵には児童らに注意を喚起する看板が立っていた。周辺に自動車が十数台停められており、近くの駐車場にも空きスペースがわずかにしかないくらいに停められていた。

「わしらは中に入っているから、始まるまでは好きにしとれ」

 祖父母の後について、カメラを抱えた父母が家の中に入って行った。

「君の両親はえらくワクワクしていたな」

「ああ、父さんは民俗学者で、母さんは童話作家だから、こういう地方の祭りとかに興味ありありなんだよね。今日は一体何枚写真撮るんだろう」

 手持ちぶさたになった志喜たちは散歩をすることにした。

歩くとすぐに竹林があった。否応なくチコとの出会いが志喜の頭に浮かんだ。視線を落とすと、チコは陽気そうに歩いている。視線はあおゆきに上がっていく。

 ――妖怪ね……

 改めて、自身が不思議な経験をしているのだと確認をした。

すると、背中から声を受けた。

「キセツ、お前、何してんだ?」

 その声が誰から発せられたのか、志喜には分かっていた。振り返る。白い上下の儀礼用の和装を纏った、赤い長髪の女子がいた。

「茅野」

 彼女は茅野ほのか。中学からの志喜の同学であり、同じ高校へも行くことになっていた。

「何って、それはこっちのセリフだよ。茅野こそ何してんだ。そんな格好して」

「私は手伝い」

 親指を肩口から後方へ向けた。そこは志喜たちが行こうとする祭事の行なわれる家だった。

「お前、あの家の親戚なのか?」

「まあ、そんなとこだ」

 茅野の家も確かに民間宗教を行う家だった。お祓いや祭事などを行い、志喜たちの街でもそこそこに知っている人の多い家だった。

「で、キセツ。そいつらは何だ?」

 自然、志喜の視線はチコとあおゆきに向かう。

「こっちは遠縁の子、こっちは塾で知り合った子。たまたまこっちに来ててさ……」

「キセツ、人が良すぎるにもほどがあるぞ」

「何のことだよ」

「そいつら、人間じゃないだろ」

 志喜はドキリとした。以前、茅野から「私、幽霊見えるんだ」とあっけらかんと言われたことがあった。その時は大して関心を払わなかったが、自身に起こったここ一両日のことで、今になって茅野の言葉に説得力を感じていた。

「何言ってんだよ。どう見ても人間だ……」

 オロオロとした感じを下手に隠そうとしている志喜の言いかけを止めたのはあおゆきだった。

「いい。都筑君。どういう素性かは匂いで分かる。誤魔化す必要はない」

 腕を水平にし、志喜の一歩前に出る。

「あやかしの類。キセツに憑いているなら祓ってやる」

「いい気になるなよ」

「あんたに用はない。いや、そっちを祓ったら、相手してやる」

 茅野には志喜に憑いているのが、チコであると見えているのだった。

 ――茅野には術が効かないのか

「できるならしてみろ。まあできんだろうがな」

「そう。じゃ遠慮なく」

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