観測者の手記
ほがり 仰夜
神代/謡
この時代、文明の発展を遮る屋根があって、ある程度の水準に達すると龍が現れ喰らい尽くして行った。刈り取られてはまた伸びて、草木のように人は育っていった。
刈られるだけだった人はあるとき龍と対峙した。戦うというにはあまりにも一方的に薙ぎ払われた。喧嘩にもならない。龍の目には映らない。力を蓄えてはまた喰らい尽くされ、敵いもしないのに武器を取り続けた。
龍は人だけでなく全ての生命を平等に刈り取っていく。世界は平されており、変化もなく、平穏だった。始まりの頃の世界はそのようなものだった。生命は名もなき海からやって来る。始まりはみな同じ。
生物は分化し交わり姿を変えていった。龍もまた同じ海からやってきた。けれど龍は海そのもの、自然現象に近い。龍とは星の枝葉。自在な姿で陸を呑んでいく。それが龍の営みで、星の胎動で、だから生物は龍を嫌いはしなかった。
時代が進み、原初の記憶は薄れても、龍と生命の関係は変わらなかった。姿を変え、細かな枝葉を伸ばす生物たちを、龍は変わらず刈り取った。そんな中である時から人が立ち向かうようになった。何度か文明を滅ぼした頃、攻撃されているのだと龍は気付く。龍が人に目を向けた。星が睨む。だからといって龍はなにをするでもない。相変わらず圧倒的で、悠々と空を舞う。時々舞を見せたりした。時代は進み人は土地を治める技術を持ち始めた。少しずつ力をつけ、技術の維持を学び、龍が人の前に姿を現す頻度は高くなっていった。
ついには屋根を越えて文明が育つ。多数の龍が集い、文明どころか各地を焦土にした。土地を棲家としていた龍さえも生きられないほど。棲家を失った龍は息絶えた。星は機能の一部を失う。龍は静まり、多くは眠りについた。文明と資源も限界を迎え、技術は失われ、それ以来大きな争いも災いも起こらない世界となった。龍の災禍は、謡の時代と続く呈の時代の境目とされる。
龍の骸に守られて人は時を繋ぐ。骸の上で生きていることを知る人々は、土地を守り規律の中で静かに過ごした。
眠りについた龍の住む地や龍の骸があった土地ではしばしば精霊が見られる。小さな龍のようなものとも、異層からの来訪者とも言われる。同じ頃、人も含めた生物は自然の力の取り出し方を知る。龍から権限の一部を譲渡されたような形で使えるようになったものであり、生物には予め備わっている。龍に伝わる話では、眠りにつく龍が「起こさないでくれ」と寝言混じりにうっかり譲ったとも言われる。
生物は自然に由来する力を得て龍の領域、星の領域に近付く。自然から取り出す力を人は魔法と呼び、記憶に残された僅かな技術と併用して生活を立て直した。
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