第4話 修学旅行の思い出
映像に高校入試の合格者を発表するボードが写される、……
僕は虐められたおかげで、友達もガールフレンドもできなかったから、勉強一筋でこの時だけは良かったと思ったよ。
都内でも有数の進学校に入学できたんだ。
「入学試験の成績だと日本のトップクラスの大学にでも入れる」親子面談で進路担当の先生に言われ、親は大喜びだった。
当然『悪ガキ』一派が同じ高校に入れるはずも無く、それだけで幸せ気分だ。
しかしどこにでも意地悪な奴はいるもので、僕が『クズ男』と呼ぶ奴が五月の連休明けころからその頭角を現してきたんだ。
高校生はさすがに小中校生とは違ってちゃちな悪戯や虐めはしない、『金』を要求された。
僕は持ってないので、「貸せないよ」と始めは言ったのだが、「貸せとは言ってない。よこせと言ったんだ」
と言うんだ。
「持ってない」と言うと、「じゃ、盗んで来い。家でも良いし、どっかの店からでも良い」
僕の頭から血の気が引いた。
とてもそんな勇気もないし、そもそもそんな事はできないのでずるずる日にちが過ぎて……。
ある日、学校帰りその『クズ男』とその仲間らしい二人に待ち伏せされ、嫌というほど殴られ蹴られた。
暴行は一時間近く続いたかな。『クズ男』らはにやにや笑いながら僕をサンドバッグ替わりにしているみたいだ。
暴行が終わっても暗くなるまで僕は動けなかった。僕は本当にサンドバッグになってしまった気がした。
―― これが何回も続いたらきっと死んじゃうな …… そんな風に思ってた。
僕に小遣いというものは与えられていなかった。「欲しい」なんて恐ろしくて言えやしない。
もちろん盗むなんてできっこない。
残った対処の策はひとつしかない、ひたすら『クズ男』に殴られ、蹴られること。
それが僕の出した結論だった。
今思えば、それは、死を覚悟したってことになるのかもしれない。
―― 戦争に駆り出されるひとはどんな気持ちだったのかなぁ …… そんな事を思い浮かべていたっけ。
そんなことがあったすぐ後だった、おばあちゃんが脳溢血で倒れ半身不随となって入院したんだ。
頼りにしていたからショックで体調を崩し三日ほど寝込んでしまったのだが、四日目の朝、
「いつまでめそめそしてんだ! さっさと起きて学校へ行け!」父親が僕の部屋に怒鳴り込んできたのだ。
心臓が止まるんじゃないかと思うほど驚き、怖くて、身支度をし食事もせずに家を飛び出したんだ。
丁度その頃修学旅行の計画を生徒が立案することになっていて、
僕は、―― 行けないだろうな …… と思ってた。
参加有無のアンケートを親に渡す時、父親が、「そんな遊びに行かなくて良い」と言ったからだ。
そういう返事をしたら先生が家まで来て説得しようとするんだ。
―― 行けなくて良いのに。どうせつまらない旅行になるだろうし、行っても『クズ男』に何されるかわかったもんじゃない ……
僕はそんな風に思っていたのに、父親が、「行かせる」と先生に言ってしまったのだ。
仕方なく出掛けたどうせ『ぼっち』の修学旅行は五泊六日で行先は韓国だ。
あにはからんや二日目泊まっていたホテルでパスポートを失くしてしまったんだ。先生に相談すると、「え、本当か? いままでそんなことなかったぞ。探したんだろな?」
僕が小さく肯くと、
「 そっか、それは大使館へ行って相談するしかないなぁ、すぐ行って手続きしなさい。それが終わるまで外出禁止だな……時間かかるかも知れないから急いでな 」
その日はグループでの自由行動だったけど手続きに走り回ることに。これも観光だと思えば良いんだけどさ。タクシー代とか手続きに金かかって残金はほぼゼロになってしまい、もう一日ある自由行動はホテルで寝てるしかなくなった。もちろん飯抜きさ……。
信じられないことに最終日、僕のパスポートがフロントに届けられたんだ。届けたのは『クズ男』。道端で、「偶然拾った」と言ったらしい。今更見つかっても使えないから要らない。
でも、僕はそこへなど行ったこと無い。きっと『クズ男』が犯人に違いないんだ!
みなも気付いているはずさ、けど、だれも口にしない。先生もだ。僕は腹は立ってもひとことも言えない。言えない自分を責めるしかない。情けないと思うよ、思うけどしょうがないだろう!
バカにされても泣くことしか僕にはできないんだよ。
帰国後、親に話すと、ただ「ばか」と笑うんだ。
クラスでは「修学旅行の思い出」という冊子を作ることまでが行事になっていたのだが、また事件が……
ボコッ、いきなり僕の頭に衝撃が走る。
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