17.後悔の回顧 - side 雅哉

 *


 あれから数日。俺は会社を休み、自室でぼんやりしていた。


『……さようなら』


 目の前でそう言って落ちていった彼女の姿が頭から離れなかった。あれから何度名前を叫んでも同じことで、俺の叫び声はただ目下の景色に吸い込まれるだけだった。


 ――深青と会う前の日に、俺が連絡できていれば。事前に伝えられていたら。


 過去の行動を悔やんでそう思っても、もう何も取り返しがつかなかった。

 前回の俺が言ったことは取り消せないし、彼女はもうこの世にはいない。今更どうしようもできなかった。


「……いや、それでも遅いか」


 思えば、彼女にちゃんと「好きだ」と伝えたのはどのくらい前のことだっただろうか。そう考えてみても、すぐに思い出せないほどには伝えていなかったのだろう。

 こちらがきちんと好きだと思っていても、それが相手に伝わらなければ意味がない。そのことを痛切に思い知った。


 でも、と思う。彼女が真実を前から知っていたのであれば、その時点で主張してきてもおかしくないはずだった。

 そうすればもっと早く、誤解をとけたかもしれないのに。


 そこでふと思い出した。昨日の彼女の電話越しの態度が、あまりにも人が変わったかのようなものだったことに。


 ――まるで演技をしていたかのような。


「そうか……」


 そういえば、彼女は演劇を学んでいる。演技を見るのが好きだとは聞いていたけど、もしかしたら演じるのも得意だったのかもしれない。

 何年も隣にいておきながら、好きでありながら、俺は彼女の演技に気付くことができなかった。きっと、そういうことだったのだろう。


 机の、深青との思い出の数々が入っている引き出しを開ける。そこには付き合った当初に撮ったプリクラのシートが入っていた。

 俺はそれを、ホワイトスノウで買ったペーパーウェイトの留め具に挟む。海が似合う彼女らしい光景だった。


「……もし次があるなら、ちゃんと好きだって伝えなきゃな」


 そう呟いた俺の声は、静寂の中に静かに溶けた。




 fin.

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ヒカリノウミ 真実(まこと) @mkt_24

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