14.逡巡の最果 - side 雅哉
「俺は、深青に何を言ったんだ……?」
彼女の表情が崩れるきっかけになった言葉だけが、どうしても見つからなかった。
先程脳裏に浮かんだ「雅哉くんが見ていたのは、私じゃなかったんだね」という言葉はヒントになりそうだったが、それでも思い出せない。
何か深青との思い出のものでも見れば分かるだろうか?と思い、俺は机横の引き出しを一つ開けた。
「……懐かしいな」
そこには、今まで行った場所のパンフレットやお揃いで買った小物など、色々入っていた。どれも見たら、いつどこに行ったかをすぐに思い出せる。
でも、それを見たところでやはり楽しかった記憶しかない。記憶の補完には役立ちそうになかった。
「ん……?」
その時、引き出しの奥の方に何かが転がっているのを見つけた。俺はそれを指先で掴んだ。
「何だこれ、キーホルダー……」
明らかにこの数年で買ったものではないキーホルダーだった。砂や貝殻がボトル型の容器に詰められたキーホルダーで、大体は小中学生などの子どもが買っているイメージがある。
何でこんなものがここに、と思ったその瞬間だった。
『雅哉! これあげる!』
『えっ、お、俺?』
『うん! 大事にしてよね?』
「これ、光貴ちゃんがくれた……」
キーホルダーの送り主が深青の姉、光貴であることを思い出した。
それと同時に、欠けていた記憶のピースがカチッとはまった音がした。俺は自分が深青に何を言ったのかを思い出した。
キーホルダーを持つ手が震えてきたのが自分でも分かった。
――そうだ。俺がこの言葉を言ったから、深青はあの時、海に――。
しかし、ここでふと思った。
本来であれば明日は予定通り海に行くはずだった。そして俺がこの言葉を伝えて、深青はこの世界からいなくなる。それがこの記憶による流れだった。
山口から見せてもらった動画。確か基本的には記憶の通りに物事が起きるから、その記憶を元に運命を回避するというのが「やり直し」の方法だったはず。
――でも、今はこの記憶と違う方向に話が進んでいる。
もう海には行かないことになった。勝手に運命が回避されている。どういうことだ?
『深青は“何かが海で起こる”と思って、行き先を変更してきた?』
先程、自分が思ったことがもう一度浮かんできた。そうだ、どんなに小さな可能性だとしても、ゼロではない。
「もしかして……深青はこうなることを事前に知っていた……?」
思い返せば、昨夜の電話は妙に落ち着いていた。人が変わったかのような態度だった。
それだけじゃない。この前会った、ホワイトスノウの時だって何故か緊張感があった。
あれが疲れていたからじゃなく、元々この先に起こることを知っていたんだとしたら――?
慌ててベッドに置きっぱなしだったスマホを手に取り、再び深青とのトーク画面を開いた。そこには相変わらず、明日の予約の情報が書いてあるだけだった。
『深青って、もしかして』
そこまで文字を打ち込んで、止まってしまった。
「過去の記憶持ってる?」なんて突然訊いたところで、これがただの俺の勘違いだったら「何を言ってるの?」と怪訝な顔をされるだけだろう。あくまで可能性がゼロではないだけで、百ではない。
それに、確認したところで――俺は結局、何がしたいんだ?
自問自答の結果、俺は打ちかけた文章を消してスマホの画面を切った。
ふと視線の先に止まった、この前購入したペーパーウェイト。それを見ても、深青の笑顔は思い出せそうになかった。
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