13.夢裡の道筋 - side 雅哉
*
その日の夜、また夢を見た。
『ごめん、あの約束は守れそうにない。さよなら』
メッセージの通知音と共に来たのは、そんな内容だった。送り主は深青だった。
「あの約束」。その言葉を受けて思い出すのは、海辺での最後の会話だった。
『今まで本当にごめん。……こんな奴のことなんて忘れて、深青は深青の幸せを見つけてほしい』
『…………うん、分かった』
それを「守れそうにな」くて、「さよなら」? その言葉の羅列を見て恐ろしい予感がした俺は、夜にも拘わらず家の外に飛び出した。
とにかく、今すぐにでも深青を探さないといけない気がした。この悪い予感が当たりませんように、と祈りながら。
しかし、走っても走っても、深青の姿はどこにも見当たらない。彼女の行きそうな場所を手当たり次第に探してみても、どこにもいなかった。
もうどこにいるかも分からない、と思ったその時、目の前がぐにゃりと歪んだ。
海の音が響く崖の上、その端に静かに佇む一人の人影。
彼女は何かをし終えた後、手元のスマホを足元に置いた。
そして、瞳を閉じて――目下の波へとその身を投げ捨てた。
その人の顔は、俺がよく知る彼女のものだった。
「――ッ!!!」
声にならない声を上げて、俺はハッと目を覚ました。掛け布団はベッドから落下しており、Tシャツの背中は汗で濡れていた。
しかし、クーラーが効いているこの部屋は暑くはない。うるさく鼓動する心臓を押さえながら、これが冷や汗であることを自覚した。
カーテンからはうっすらと光が射していることから、この前のように明け方に起きてしまったのだと悟った。
「何だ、今の夢……。っ!」
今見ていた映像を思い出し、俺は慌てて枕元のスマホを点けた。一直線に深青とのトーク画面を見る。
そこには明日のお店の予約ができ、詳細を送ったメッセージが最後に来ていたのを映すのみで、「さよなら」という言葉はどこにも書いていなかった。ひとまずは安堵した。
――じゃあ、あの夢は何だったんだ?
そう思った刹那、急に頭がクラッとした。
『……そっか』
『雅哉くんが見ていたのは、私じゃなかったんだね』
頭の中に、そんな言葉が、深青の声で流れてきた。
『最近流れてきた、ちょっと変な噂があってさ』
『本当に人生をやり直すみたいに、前の人生の運命や記憶を覚えている人がいるとかなんとか』
そして、山口が言っていたあの日の言葉を、思い出した。
俺は、深青のこの言葉を、知っている――。
「……!!!」
その言葉が脳内に浮上してきて、ハッとした。「知っている」。今俺は紛れもなくそう思った。
実際に聞いたことのないと断定できる言葉を、何故知っている? にわかに信じがたいが、もう信じるしかなかった。
「もしかして俺が見てきた夢は、全て過去の俺の記憶……?」
ぼんやりした頭でそう呟きながら、どこかで確信したような、納得したような自分がいた。
そうでなければこの既視感も、恐怖感も、説明がつかないのだ。
――これが記憶であるなら、この数日で俺は何を見た?
そう思ったら、いても立ってもいられなくなった。
机に移動し、まずは自分が見たものを整理しようと余っていたルーズリーフとペンを手に取った。
最初に見たのは、海に行く道中の車内での会話。深青はいつもみたいに楽しそうだったけど、俺はその時から「何かを言わなきゃ」と思っていた。
次に、海でその「言わなきゃ」と思っていた何かを彼女に伝えると、その瞬間に深青から笑顔が消えた。
そして、「深青は幸せになってね」と言ったその日の夜、彼女から「さよなら」とメッセージが来て、俺は必死に探したけど見つけられなかった。
その頃、深青は海に飛び込んでいた――。
思い出す度にかすかに頭が痛くなってきたが、そんなことを気にしている場合ではなかった。
しかし、ここまで整理してみてあることに気付く。
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