03.恋人の思案 - side 雅哉
*
ツー、ツー、という電話が切れた音が聞こえた後、着信履歴の画面に切り替わったのを確認して、俺はスマホの画面をオフにした。そして、椅子から立ち上がり一つ伸びをする。
今日は休日で一日家にいたので、彼女との約束でようやく外に出ることになる。
そこで「あれ、何時の電車に乗ればいいんだっけ」とふと思い、折角画面を消したスマホにもう一度触れ、電車の乗り換えを検索する。
まだ余裕があることが分かり、少しホッとした。
『え! 一石二鳥すぎる、それがいい!』
その時、先程の彼女の反応を思い出し、思わずクスっと笑ってしまう。
「……深青、余程楽しみなんだな。ホワイトスノウ」
ホワイトスノウは、自然をモチーフにした雑貨が集まる小さなお店だ。
名前の通り雪だったり、桜だったり、海だったり。
深青がそういう類のものを好きなのをこの数年で知った俺は先日、たまたま見かけたこのお店に彼女を連れていった。
そうしたら案の定、活き活きした表情でお店のものを真剣に見ていた。その時の様子が忘れられず、また誘ってみたというわけだ。
折角だし、今回は俺も何か買おうかな。深青と相談してお揃いの何かを買うのもありだな。
そう思いながら目線がふと卓上にいった時、机上のカレンダーに目が止まった。今日は日曜日。そして今週の金曜日の日付の箇所に、赤のボールペンで囲った跡がある。
赤丸をつけたのは随分前のことだが、その日が何の日か思い出すのは極めて容易だ。
――もう今年の記念日か、時が経つのは早いな。
何度か前の夏の頃に深青から告白されて付き合い始めて、今やもう丸三年が経とうとしている。
勿論喧嘩したり気まずくなったりしたことは何度もあったが、こうして長く一緒にいられるだけで嬉しいことだなと改めて思った。
記念日だからって今までも派手にお祝いをすることはなかったし今年も派手にするつもりはないが、こうして記念日を迎えられるだけで奇跡のようにも感じる。
当日の金曜日は生憎平日で、俺は仕事だし、確か深青も授業やバイトがあったはずだ。翌日の土曜日辺りにどこか一緒に行けないだろうか。
「……あ、そうだ」
この時期だし、そろそろ海へ行ける頃合いではないだろうか。そう思った時、何故かどこかで懐かしい感覚を抱いた。
この不思議な感覚は何だ、と思った矢先、思えば幼い頃に海に行ったことがあるような気がする。それだろうか。
まぁいいか、と思い直し、この近くで行きやすい海がないか早速検索してみた。千葉方面に行くには少し遠いが、神奈川方面ならまだ行きやすいかもしれない。
海の中へは入れなくとも、近くをドライブするのは十分にありだと思った。
暫く情報収集をしていたら、いつの間にかそろそろ家を出なくてはならない時間になっていた。流石にこの電車を逃したら若干遅刻してしまうだろう。
俺は慌てて荷物を持ち、自宅を後にした。
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