もふもふアイドル☆もふドル リボン読者小中生女子向けメンズもふもふバージョン
こい
1もふ🐾綺麗な声
子どものころからアイドルに憧れていた。
動画配信をチェックしては歌を真似たりダンスを真似たり。
いつかはわたしもアイドルになりたいと思うようになった。
わたしが感じた感動をみんなにも届けられるようなアイドルに。
毎日毎日、ボイストレーニングをしたり体幹トレーニングをしたり一生懸命にがんばった。
だけど、なりたい気持ちとなれるかは別の話。
選ばれた人になるためにはいろんな才能が必要だ。
わたしは歌って踊る才能はそれなりに自信があった。
その代わり……ひどい短所があった。
人の注目を浴びることがとても苦手だった。
人の前で歌うのも踊るのも無理。
録画でもおんなじ。
緊張で心も体もあっという間にダメになってしまう。
そんなわたしに、信じられないような出会いが待っていた。
みんなと出会って学園で過ごす日々。
わたし自身の心の変化と一緒にみんなと成長した日々。
そしてとうとう夢を叶えるときがきた。
「あかり。やっとここまできたな」
「うん! みんなとがんばったからだよ!
わたしたちの歌で夢と愛を届けよう!」
「あかりが一歩一歩をがんばったからさ」
わたしの大好きな人たちとハイタッチ。
先にステージに向かう後ろ姿を舞台袖から見守る。
学生服をモチーフにした衣装がキラキラと輝いてる。
それぞれ特徴のあるみんなの耳としっぽが自信に満ちあふれてる。
ステージに現れた姿に上がる大歓声。
あふれる想いで立ち止まっていたわたしも遅れてステージの中心に向かう。
きっとここから伝説になる!
わたしの。ううん。みんなのもふドルが!
🐾🐾🐾🐾🐾🐾
緊張する!
通学路を歩いているとたくさんの生徒たちが正門に向かっている。
心が落ち着かなくて正門を早足に駆け抜けようとしたけれど、学園の名称が記された金属のプレートに目が止まる。
『心愛芸術学園』
中高一貫の学園。俳優、歌手、ダンサー、声優や、動画クリエーター、映像関連制作者や、マネジメントやプロデュースなどなど、芸能関係を目指す人たちが集まる学園だ。
一般科もあるけど、芸能科の方が人数が多い。
わたしは芸能科で、高等部から芸能関連の授業が本格的に始まる。
今日は高等部の入学式。
中等部で三年間通った校舎から高等部の校舎へと教室が変わる。
中等部でのわたしはほんとにダメダメだった。
すぐに緊張してしまう性格のせいでクラスに馴染めなくて一人でいることが多かった。
高校デビューとかしたいところだけど、中等部からの持ち上がりの生徒が多いからそれはできない。
デビューなんてやろうとしてもわたしの性格じゃ無理だろうけど……なんて弱音は吐かないつもりでいる!
アイドルになりたいと思っているのにクラスの子たちと全然話せないなんてダメがすぎる!
今度こそ、ハキハキとみんなの前で明るく楽しく話せるようになって見せる!
決意を込めて握り拳を作って顔を上げる。
「えーと、次は佐藤さんですね。自己紹介をお願いします。
佐藤さん? 佐藤さん!」
「ひゃい!」
急に苗字を呼ばれて勢いよく立ち上がってしまった。
机がガタンと弾むくらいに。
教室の黒板に先生の名前が白く書かれてる。
クラスの生徒たちみんなの視線が集まってる。
あれ? いつの間に入学式終わってた?
ぐるぐるぐるぐる、ずっとがんばるって心の中で考えていて周りのことが全然頭に入ってなかった。
もしかして、順番に自己紹介してる?
わたしの順番?
あっちでヒソヒソ話す子たちがわたしを見て笑った気がする。
みんなの視線が怖い。
「わ、わたしゅは! しゃ、佐藤あかりです!
ア、アイドルになるために、が、がんばって!」
噛みまくってうわずった声でさらに注目を集めてしまった。
ちょっと待って! そんなに見ないで!
いや、見られるのは当たり前だよね!?
だって自己紹介だもん!
緊張が止まらない!
頭の中がぐるぐるぐるぐる、もうどうにもならない。
顔が真っ赤になって目眩がする。
ふにゃりと力が抜けて机に突っ伏していた。
🐾🐾🐾🐾🐾🐾
高校入学初日、突然の高熱で早退することになった。
二日経っても三日経っても何日経っても、高熱のままベッドでうなされる毎日。
喉も痛くないし鼻水も出ない。ただ尋常じゃない熱だけが続いてる。
食欲はちゃんとあって、頭はぼーっとするけど三食しっかり食べてる。
いろんな病院に行っていろんな検査をしたけれど原因は分からないまま。
とうとう入院することが決まってしまった。
長いこと入院するかもと言われてしまった。
大好きな動画配信も見れないし、育成ゲームもできないし、高校生になったばかりで学校に行けないなんて悲しい。
わたし、アイドルになりたいのに死んじゃうのかも。
それにしても情けない。
あれだけ決心したのにみんなに注目された瞬間にパニックになるなんて。
熱で意識がぼんやりする中、とても大事にしていたコジローのことを思い出す。
とってもかわいい豆柴の男の子。
たった三年で病に冒されて死んでしまった。
寝るときもご飯を食べるときも必ずわたしのそばでしっぽをぶんぶんと振ってくれていた。
わんこのご飯になるカリカリフードをわたしの手のひらにのせると、喜んで食べる姿がうれしかった。
「あれ? なに言ってるんだろ、わたし?
コジローならそこにいるじゃん」
不安になるからと、部屋の電気は夜中でも明るくしたまま。
ベッドの下でコジローがわたしを心配そうに見上げてる。
耳鳴りのようなコジローの鳴く声が聞こえる。
「あれ? コジロー?
どこに行ったの?」
部屋の外から聞こえるコジローの鳴き声が悲しそう。
どうしたの? お腹でも空いてるの?
それともボールで遊んで欲しいの?
体がフラフラすることも忘れて廊下へ向かう。
「コジロー? リビングに行ったのかな?」
わたしの家はかなり大きい。
心愛芸術学園のすぐ隣にある。
元々は心愛芸術学園の男子寮として使われていたんだとか。
とある事情で二人暮らしをしていた姉とわたしと一緒に新年度を前に引っ越してきた。
老人ホームに入るおばあちゃんの代わりにここを管理することになったんだよね。
管理といっても寮としては使われていないし、建物の面倒をみればいいって話になってる。
わたしの部屋は一階にあってリビングのすぐそば。
わざわざ遠くの部屋を使うのはめんどくさい。
真っ暗な中でwi-fiの機器や炊飯器のランプだけが光っていて、案外その程度の明かりだけでも見えるものだった。
いまは何時だろう?
真っ暗なキッチンとリビングには誰もいない。
姉も自分の部屋できっと寝てる。
「コジロー? どこに行っちゃったの?」
ふらつく足取りでうっかり倒れそうなわたしの耳に遠吠えが聞こえた。
この遠吠えはコジローのお腹が空いたときのサイン。
「お腹が空いたんだね。
いまご飯を用意してあげるから待っててね」
もちろんカリカリフードはない。
だけどそのときのわたしには正常な判断能力はまったくなかった。
や。いつもないかもしれないけど。
冷蔵庫を開けると紙袋に入ったペンタのフライドチキンが七本あった。
姉がバイト先からもらってきたもの。
「冷えたままじゃ美味しくないよね?」
しょっぱくて油っこい食べ物を犬にあげてはいけないものだけど、いまのわたしには関係なかった。
七本全部を電子レンジに入れて800ワットで紙袋に入ったまま何分も温める。
電子音が聞こえたから蓋を開けて紙袋を鷲掴みにする。
「熱っ」
温めすぎて火傷をするくらい熱かったのに高熱のせいかそれほど気にしなかった。
「コジロー?」
振り返ってコジローを探すわたしの耳に、もう一回遠吠えが聞こえた。
家の外から聞こえたみたいだった。
「あれ? もしかして家の外に行っちゃった?
探しに行かなきゃ」
サンダルをつっかけて鍵も閉めずに外へ歩き出す。
満月が綺麗に輝いている夜だった。
コジローの遠吠えが聞こえる。
なんでかはっきりと聞こえてくる方向が分かる。
通りには誰もいない。
月明かりではっきりと見えるけど、ほんとならこんな夜道は怖くて歩けない。
だけどそんなことはいまはどうでもいい。
お腹を空かせたコジローにご飯をあげないと。
頬と体が火照って頭がぼーっとするまま歩みを進める。
春の夜風が心地いい。
なんだろう?
その後も何度か聞こえるコジローの遠吠えに導かれるみたいな不思議な感じ。
あれ? 歌が聞こえる?
透き通るような月明かりに溶けていくような綺麗な声……
一体誰が歌っているんだろう?
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