縁結びの魔物使い ~モンスター同士の縁を見抜く〈加護〉で、配合を極める!~
紙城境介
Fランク編:牧場の娘、闇配合士、溶竜と不死鳥
第1話 最初の縁
街を目指して森を歩いている途中で、なんとなく手頃な枝を投げてみた。
そしたら、その先端が道を右に外れたところを指したので、茂みをかき分けてそっちに行ってみた。
はたから見たら意味不明な行動かもしれないけど、僕にとってはすごく意味のあることだ。
だって、適当に拾った枝を適当に放り投げて、それがそっちを指したってことは、そっちの方向に縁があるってことだから。
木の間をまっすぐに歩いていくと、やがて声が聞こえた。
いや、声というより……それは悲鳴だった。
「やっぱり縁があった」
僕はそうつぶやくと、相棒に声をかける。
「行くぞ、ゼル!」
「キュイ!」
僕の肩に乗っていた青い鱗の小竜が大きな口で鳴くのを聞くと、僕は走り出した。
ほんの10秒程度走ったところで視界が開け、芝生が生い茂る広場に出る。
その真ん中に、一人の女の子と3匹の緑の肌をした小鬼がいた。
人間の子供くらいの体格に緑色の肌、そして興奮して粗雑な棍棒を振り回すその姿は、紛れもなく――
「ゴブリンか……!」
どんな土地でも見ないことはない、属性スライムの次に多いと言われる最下級モンスターだけど、武装していない人間にとっては十分な脅威だ。
3匹のゴブリンに詰め寄られている栗色の髪の女の子は、見たところ武器を持っていないし、戦闘の訓練を受けている感じもしない。
迷う理由はなかった。
「ゼル!」
僕の声に答えて、ゼルが僕の肩から飛び立った。
コウモリ程度の小さな翼を羽ばたかせて空中にとどまる。
相棒に、僕は鋭く指示を出す。
「《ウォルタ》で蹴散らせ!」
ゼルは甲高く鳴きながら大きく口を開け、そこから勢いよく水流を吐き出した。
《ウォルタ》――それは水属性の下級攻撃魔法の名前。
水流はゴブリンたちの顔面に激突し、その小柄な身体を吹き飛ばした。
僕はその隙に尻餅をついた女の子の前に出て、背中で庇う。
ずぶ濡れになって芝生の上に転がったゴブリンたちを睨みつけると、ゴブリンたちは怯えた鳴き声を漏らし、背中を向けて森の中に消えていった。
「ふう……」
ため息をつくと、ゼルが僕の方に戻ってくる。
そして後ろに振り返ると、栗色の髪の女の子が驚いた顔で僕を見上げていた。
「て……
僕は苦笑いする。
「その卵ってところかな」
女の子は僕と同じくらいの歳――つまり14、5歳くらいで、簡素なえんじ色のワンピースの上に白いエプロンをつけていた。
多分、農民か何かの娘かな。こんな街外れにいるのは不思議だけど……。
それと、顔立ちの幼さの割には、おっぱ――じゃなくて、スタイルが大人っぽい。
僕は一人で勝手に恥ずかしくなって目をそらすと、咳払いをしてから言った。
「僕の名前はシオン。君は?」
僕がそう尋ねながら手を差し伸べると、女の子はその手を見つめながら、
「の……ノエルです」
そう答えながら、僕の手に手を伸ばし、
////////////////
「危ない!」
ノエルが悲鳴のように叫んだ。
直後、僕の後頭部に衝撃が走った。
草の上に叩きつけられながら、チカチカする視界で背後を振り返ると、ゴブリンが意地の悪い顔で僕を見下ろして――
////////////////
「危ない!」
ノエルが悲鳴のように叫んだ瞬間、僕は横に身をかわす。
僕の頭があった位置に、粗雑な棍棒が勢いよく振り下ろされ、ゴブリンが「ギギッ」と驚いたような声を出した。
「ゼル!」
僕の声に応えて、ゼルが僕の方から飛び出し、ゴブリンの顔面に頭突きを食らわせる。
「《ウォルタ》!」
地面に転がったゴブリンに向かって、ゼルは再び水流を浴びせた。
それがとどめとなったみたいで、ゴブリンは動かなくなり、紫色の塵となって地面に染み込んでいった。
どうやら卑怯な不意打ちを思いついたのは1匹だけだったみたいだ……。逃げていった他の2匹は戻ってくる気配がない。
「危なかった……。加護がなかったら今のでやられてたかも」
改めて栗色の髪の女の子に向き直ると、僕はもう一度彼女に手を差し出した。
「ノエル……だったっけ? 大丈夫だった?」
「は、はい……でも今のは……?」
彼女は驚いた顔で僕を見つめた。
「まるで後ろに目がついていたみたいに……」
「いやー……まあちょっとね」
はははと笑ってごまかしながら、僕はノエルの手を握った。
その瞬間、彼女の顔の下に文字が浮かび上がってくる。
【仕事縁92%】
【恋愛縁81%】
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