偶像③
「いきなりお呼びたてしてすみません」
佑太のコーヒーが出来上がるのを待たずに、唐突に安藤が話はじめた。
「今日お呼びしたのは、湊さんのことでお伝えしたいことがありましてね」
そう言って安藤は、体をグイっと佑太のほうに向けて前かがみになる。
そしてこのまま本題に入ろうとする安藤の話を、佑太は驚いてさえぎった。
「ちょ、ちょっと待ってください。それって僕が聞いても大丈夫な話なんですか…」
我ながら間の抜けた質問だと思うが聞かずにはいられなかった。
どうして自分のような、ただの一ファンに情報をリークするのか。
そこにはどんな狙いがあるのか。
相変わらずそんな思いが佑太の頭のなかをぐるぐると駆け回っていた。
質問に安藤は一瞬、驚いた表情を浮かべたが、すぐにまたにこっと笑った。
「そうですね、私も正直お話するべきか迷ったんですが、結局お伝えしたほうがいいかと思いましてね」
これには、はあ、と曖昧に返事をするしかなかった。
回答になっていない。
だが、佑太はそれ以上何を聞いても無駄なような気がしていた。
結局、佑太の質問にはお構いなしに安藤は話を続ける。
「湊さんは奥さまと離婚調停中でしてね。夫婦仲はかなり冷え切っていたようですよ」
そこで安藤はわざとらしく声のトーンを一段落とした。
「それでここからが問題なんですが、奥さんから湊さんへ暴力が日常的に行われていたようなんです。今回の事件は湊さんが暴力に耐えかねて起こしたもの、という見方が強いんですよ」
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