僕の脳は欠陥品

欠陥品の磨き石 磨奇 未知

タイトル 僕の脳は欠陥品


「あんたなんて産まなければよかった」

今年還暦の母が初めて唸りをあげた。

母の目には小さな水溜りができていた。

表面張力が働いてるかもと思わされるほど

留まっていた。

僕は唖然として固まった。

聖母マリアを彷彿とさせる人間愛に溢れたあの母からの発言だとは思えなかったからだ。

僕はベタベタに張り付いた手をゲームから外し、シワクチャの萌えTシャツから異臭を放ちながら立ち上がった。

「あ、ああ いつもの仕事のことで怒ってるんだろう?今も探してるよ。今年中には必ず働き始めるよ」

母とは違う塩の入った水溜りが顔全体を覆った。

目線もどこか上の空だ。

母は青筋を立てながら、僕に平手打ちをした。

母の瞳の奥はどこか寂しそうだった。

「いつもいつもそうやって…何年も何年も…

そのセリフ何回目なの?

なんでゆうとは当たり前の事ができないの?

私が悪いの?ねぇ教えてよ。

ねぇ ゆうとは私に嫌がらせがしたいの?」

どうやら母を怒らせていたみたいだ。

なんの才能もないと思っていた僕だが人を怒らせる才能はあったみたいだ。

自分が生きているだけで人に迷惑をかける社会のゴミクズなことぐらい自覚している。

だから他人に迷惑をかけないように引きこもっていたのに…

「ねぇ、もう家から出て行ってよ…朝の4時だよ?毎朝毎朝ゆうとのゲームの音で起こされるのはしんどいよ…これ以上迷惑をかけないで…」

どうやら世間では、朝の4時は寝ている時間みたいだ。体内時計の狂った僕には到底気づきようのない事だ。

僕は人を怒らせる才能以外に他人に迷惑をかける才能を持っていたみたいだ。

最悪な才能だ。僕は不気味に笑った。

僕は頭のフケを撒き散らしがら立ち上がった。

「ゲームの音は切るようにするよ…仕事もいずれ見つけるからさ もう少しだけ待ってくれないか?」

僕は思ってもいないことをペラペラと喋った。

嘘を付くのは得意だ。

僕の唯一の特技だ。

「なんで…なんで毎回毎回嘘をつくの?

ゲームの音を切るって言ったの何回目?30回は聞いたよ?もう出て行ってよ…お願いだから…」

母は泣きじゃくっていた。僕が母親みたいじゃないか しかし嘘をついていたのがどうやらバレていたみたいだ。

僕の嘘を見破るなんて、母はもしかしたら探偵なのかもしれない。

僕は不気味に笑った。

僕が不気味に笑っていると、母の顔が真顔になっていた。

まるで魚の骨みたいだ。猫にあげたら喜んで飛びつくだろう。

母は抜け殻を背負った蝉のように僕に近づいた。

相撲取りのような重い足取りだ。母の体重もあいまってそれにしか見えなくなった。

「もう 終わりにしよう…」

母は震えた声でそう発言した。

ガッ!母の手が僕の首を掴んだ。

僕は釣竿に捕まった魚のようにもがいた。

「息ができない…」

ドシン 体が地面に叩きつけられる音が響いた。

「私も楽になっていいよね」

私は台所から包丁を取り出し、

「地獄でも天国でもゆうとについていく 

ゆうとが生まれた時に私はそう決めていたんだ」

呪いのようにその言葉を発言し、

グサッ 包丁の音が異様な空間に響いた…

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