【第10話】孤独な英雄と架け橋たちの夜明け


 レオンとの冒険が、静かに幕を開けた。


 イベントダンジョン「深淵の闇窟」は、プレイヤーたちの恐怖や孤独が具現化する不気味なフィールドだった。

 天井から垂れる黒い蔦、どこかで誰かの泣き声が聞こえる。エリスは肩をすくめ、リュカはレオンの様子を気にしていた。


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 ダンジョンの最深部には強力なボスが待ち受けているが、道中のトラップや“幻影”が行く手を阻む。


 レオンは何度も先に立って敵を倒し、トラップを無言で解除していく。しかし、仲間との連携にはあえて加わろうとしなかった。


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 そんな彼の背中を、エリスはそっと見つめていた。


 「……昔のリュカさんに、ちょっと似てるね」


 「そうかもな。俺も昔は、ひとりでなんとかしようとしてばかりだった」


 リュカは微笑み、レオンに少し距離を詰めて声をかける。


 「レオン、もし危ないときは言ってくれ。俺たち、必ず助けるから」


 レオンはわずかに頷くだけだった。


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 ダンジョン中盤、三人を襲う“過去の幻影”――

 かつてのギルド仲間たちの幻がレオンを囲む。


 「お前はリーダー失格だった」

 「もう誰にも頼られないよ」

 「一人で戦えばいい」


 レオンは歯を食いしばり、剣を握る手が震えていた。


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 エリスが勇気を振り絞って彼に声をかける。


 「そんなこと、ないよ! レオンさんはきっと、誰かを守ろうと頑張ってただけだよ!」


 リュカも続ける。


 「人はみんな失敗する。だけど、やり直したいって思うなら、何度でも始められる。俺たち、信じてるから」


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 レオンはしばらく沈黙したあと、幻影に向かって叫んだ。


 「俺は……もう一度、誰かと一緒に戦いたい!」


 その瞬間、幻影は音もなく消えていった。


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 三人は再び歩き始める。レオンの顔には少しだけ力が戻っていた。


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 ボス戦の直前、レオンがぽつりと言う。


 「お前たちと一緒なら、またギルドを作ってもいいと思えた」


 リュカとエリスは顔を見合わせて頷いた。


 「ぜひ、一緒にやろう!」

 「新しい仲間ができるの、すごく楽しみ!」


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 ボス「深淵の王」は巨大な黒い鎧に身を包み、三人の前に立ちはだかった。

 凄まじい攻撃がリュカたちを襲うが、今度はレオンも自然と仲間を庇い、的確に指示を飛ばす。


 「エリス、後方支援を頼む!」

 「リュカ、右から回り込んで!」


 エリスはヒール魔法を重ね、リュカは一撃必殺のスキルで王の防御を崩す。

 レオンもかつてのリーダーの意地を見せて果敢に剣を振るった。


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 ボスが最期の大技を発動したとき、三人はお互いを信じて行動を重ねる。


 「絶対、三人でクリアしよう!」

 「うん!」

 「任せろ!」


 閃光が走り、ついに「深淵の王」を打ち倒す。


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 勝利のファンファーレが響く。

 アリアが満面の笑みで現れた。


 「三人の絆が、ダンジョンを浄化しました。レオンさん、あなたには“希望の紋章”を授与します」


 レオンは感無量の面持ちで紋章を受け取る。


 「……ありがとう。本当に、俺のことを諦めずに声をかけてくれて」


 リュカとエリスは「こちらこそ!」と笑顔で手を差し出した。

 レオンは、少し照れながらも二人の手をしっかり握り返した。


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 その夜、現実世界の遼もエリスも、携帯でギルドのチャットを開いたまま、ふと空を見上げていた。


 (つながっている。自分はもう一人じゃない)


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 翌日、遼はサークルの仲間に「今度みんなでBBQやらない?」と提案してみた。

 「面白そう!」「遼がリーダーやるなら絶対成功!」

 みんなが笑顔で集まりはじめる。


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 エリスも友人とカフェで楽しい時間を過ごし、

 「またゲームで一緒に遊ぼうね」と約束を交わした。


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 夜、ギルド「架け橋」の初回集会。


 レオンは少し緊張した様子で新しいメンバーたちに自己紹介した。

 「前は独りが楽だと思ってた。でも、こうして仲間と笑い合うほうが、ずっと楽しいなって分かったんだ」


 拍手と歓声の中で、リュカもエリスも誇らしい気持ちになった。


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 その日のラスト、アリアが画面に現れて言う。


 「皆さんの“絆”が、次なる世界の扉を開きます。これから待つのは、全ギルド合同の“守護戦争イベント”です」


 リュカ、エリス、レオンは顔を見合わせ、「よし、次も一緒に戦おう」と力強くうなずきあった。


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 その夜遅く、遼の部屋に妹の真琴がやってきた。


 「お兄ちゃん、最近すごく楽しそうだね。なんか雰囲気も明るくなった気がするよ」


 遼は「まあ、ちょっと色んな人に助けてもらってるからかな」と笑う。


 「私も今度、みんなでお出かけしたいな」と真琴が言うと、遼は「もちろん!」と即答した。


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 翌朝、エリスは家族と朝食を囲みながら、

 「今日も新しい仲間が増えそうだよ」と明るく話す。母は微笑んで「エリス、どんどん変わっていくね」と応援してくれた。


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 夜、ギルドチャットには新しい仲間たちからのメッセージが溢れていた。


 『明日の守護戦争イベント、みんなで絶対勝とうな!』

 『リーダー、指示頼りにしてるよ!』

 『ギルドの仲間って最高!』


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 リュカ、エリス、レオンは画面越しにお互いの顔を想像しながら、

 (この出会いが、本当に自分を変えてくれた――)

 そんな思いを胸に、新たな冒険に向けて心を一つにする。


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 守護戦争イベントの幕が、いま、静かに上がろうとしていた――。


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