【第9話】架け橋たちの新しい日々


 新たな役割――“架け橋”としての日々が、遼とエリスに静かに始まった。


 現実世界では、遼は大学の仲間たちに積極的に声をかけるようになった。

 休み時間、誰かが悩んでいる様子を見ると、さりげなく「大丈夫?」と声をかける。

 最初は少しぎこちなかったが、話しかけられた友人は「遼って、優しいな」と素直に笑顔を返してくれる。


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 一方、エリスも放課後の部活動で、後輩がミスをして落ち込んでいるのを見かけた。

 エリスは静かに近寄り、

 「私も前はミスばかりだったよ。でも一緒にやってみよう?」と、励ましの言葉をかける。

 後輩は涙目になりながらも、エリスの言葉に安心したようにうなずいた。


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 夜になると、二人は《イモータル・ワールド・オンライン》の広場で合流した。

 アリアが「架け橋任務」を伝えてくれる。


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 その日与えられたのは、「新規プレイヤー歓迎イベント」へのサポートだった。


 広場ではたくさんの新規ユーザーが、右も左も分からず戸惑っている。


 リュカ(遼)は初心者たちに丁寧にクエストの受け方や操作方法をレクチャーする。

 エリスは不安そうな子に寄り添い、「最初はみんな怖いものだよ」と穏やかに声をかけていく。


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 イベント終了後、一人の少年型アバターがリュカに駆け寄ってきた。


 「リュカさん、ありがとうございました! 僕、最初は怖くてログインするのも嫌だったけど、今日すごく楽しかった!」


 「そう言ってもらえると嬉しいよ。分からないことがあれば、いつでも頼ってね」


 少年は満面の笑顔で何度も頭を下げてから、仲間のもとへ戻っていった。


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 エリスのもとにも、感謝の言葉が届いていた。


 「……エリスさんのおかげで、わたし、もう少し頑張れそうです」


 「私も、最初は勇気が出なかったけど……今はこうして、誰かの力になれて嬉しい」


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 その夜、遼はベッドに横たわりながら静かに天井を見上げた。


 (“架け橋”って、大げさかもしれないけど――

 それでも、誰かの支えになれるのはすごく幸せだ)


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 日常も、少しずつ変化し始めていた。


 ある日、真琴が「友達を家に連れてきてもいい?」と聞いてきた。


 「もちろん。みんなで楽しく過ごそうよ」


 久しぶりに家のリビングに賑やかな声が響き、遼も自然と笑顔が増えていく。


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 大学ではタクと一緒に昼休みの中庭で談笑していた。


 「なんか、お前がみんなに声をかけるようになってから、サークルの雰囲気良くなったな」


 「そうかな? でも、俺もみんなに助けられてるんだよ」


 タクは「お前、ほんと変わったよ」としみじみ呟いた。


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 夜の《イモータル・ワールド・オンライン》。

 アリアがふたりを広場に呼び出した。


 「架け橋任務、初回大成功です。ですが、次はこれまでより難度の高い依頼です」


 画面に新しいクエストが表示される。


 《特別任務:孤独な英雄を救え》


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 内容は、他のギルドで“孤立してしまったプレイヤー”に寄り添い、再び仲間と笑い合えるように導くというものだった。


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 リュカとエリスは顔を見合わせ、そっとうなずく。


 「次はどんな人が待ってるんだろうね」

 「きっと、大丈夫。二人でなら、どんな困難でも乗り越えられる」


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 翌日、遼は大学の帰り道、ベンチでひとりスマホを見つめている後輩に気づいた。


 「どうした? 何かあったの?」


 後輩はしばらく沈黙してから、小さな声で「最近、みんなとうまく話せなくて……」と打ち明けた。

 遼はゆっくりとうなずき、「俺も前はそうだった。でも、一歩だけ勇気を出して声をかけてみたら、少しずつ世界が変わったよ」と話す。


 後輩は「俺も頑張ってみる」と微笑んだ。


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 エリスも放課後の帰り道、友人たちが楽しげに話している輪の中に、自分から入っていった。


 最初は緊張していたが、友人の「エリスも一緒に帰ろうよ!」という声に自然と笑顔がこぼれた。


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 その夜、二人は《イモータル・ワールド・オンライン》の新たなクエスト「孤独な英雄を救え」に挑む準備をしていた。


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 アリアが依頼の詳細を伝える。


 「対象プレイヤー“レオン”は、かつてトップギルドのリーダーでしたが、現在は仲間と離れ、誰ともパーティを組もうとしません。彼の心を開くには、時間と信頼が必要です」


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 リュカとエリスはフィールドでレオンのもとへ向かった。


 レオンは高レベル装備に身を包みながらも、目はどこか寂しげだった。


 「……用がないなら、近づくな」


 ぶっきらぼうな言葉に、エリスは臆することなく話しかけた。


 「ひとりでいると、きっと色んなことが辛くなるよ。よかったら、私たちと一緒にクエストやらない?」


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 レオンは最初、無言で背を向けるが、リュカが「俺たちも昔は孤独だったんだ。でも、誰かと繋がることで毎日が少しずつ楽しくなった」と伝えると、わずかに肩を震わせた。


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 現実の遼も、その夜は「人と向き合うことの難しさ」をノートに書き出し、

 自分自身としっかり向き合っていた。


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 真琴がふいに部屋に入ってきて、「兄ちゃん、今週末どこか遊びに行かない?」と誘う。


 「いいね、みんなで行こうか」と遼が応じると、真琴は嬉しそうに頷いた。


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 翌日、エリスは学校帰りに母親とカフェに立ち寄った。


 「最近すごく明るくなったね」と母親が言うと、

 エリスは「友達やリュカさんのおかげで、少しずつ変われてる気がする」と照れながら答えた。


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 夜。

 ゲームの中で再びレオンに声をかけたリュカとエリス。


 「今日は一緒にイベントダンジョン、行かない?」


 しばしの沈黙の後、レオンは小さく「……まあ、いい」とだけ返事した。


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 リュカ、エリス、そしてレオン――三人の新しい冒険が、いま始まる。


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