【第7話】希望の塔、二人の約束
希望の塔は、まるで空を貫くようにそびえ立っていた。
石造りの巨大な扉が、リュカとエリスが近づくのを待っている。
「この先、どんな仕掛けがあるんだろうね」
エリスが不安げにリュカを見上げる。
「どんな困難があっても、一緒に乗り越えよう。俺が絶対、守るから」
リュカは笑い、エリスも小さくうなずいた。
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塔の中は静寂に包まれ、細い階段がらせん状に上階へと続いていた。
壁にはプレイヤーたちが残したであろう言葉や、古いギルドの旗が飾られている。
一歩踏み出すと、すぐに画面上に「第一試練:勇気」と表示された。
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階段を登ると、突如として塔の空間が歪み、二人は別々の小部屋に転送されてしまう。
「えっ……リュカさん!?」
「エリス! 大丈夫か!」
壁越しに声をかけても、微かにしか聞こえない。
それぞれの部屋には異なる“過去の幻影”が現れた。
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リュカの前に現れたのは、中学時代の孤独な自分だった。
クラスの輪に入れず、ひとりきりで教室の隅に座っている。
(……あの頃の俺か)
「どうせ、お前は何も変われない」
幻影の“自分”が冷たく呟く。
リュカは苦笑しながらも、真正面からその幻影を見つめ返す。
「たしかに、ずっと怖がってた。でも、いまは違う。
誰かと出会って、一緒に歩きたいって思えるようになったんだ」
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一方、エリスの部屋には中学時代の友人たちが現れていた。
彼女は、輪に入れずに戸惑い、いつも端で黙っていた自分を見ている。
「みんなは、私がいてもいなくてもいいんだ」
幻影が呟く。
「そんなこと、ないよ……」
エリスは震える声で言う。「だって、今はリュカさんがいてくれるから」
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部屋に満ちていた闇が、二人の言葉で少しずつ薄れていく。
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そして塔内のスピーカーから、アリアの声が響く。
「第一試練、突破です。ふたりの“勇気”が、過去の孤独を乗り越えました」
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再び部屋が光に包まれ、リュカとエリスは同じ広間へ転送される。
「……戻ってこれた」
エリスは安堵し、リュカはそっと彼女の肩に手を置く。
「大丈夫だった?」
「うん。リュカさんのこと思い出して、頑張れた」
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塔の広間には、第二試練“信頼”の扉が待っていた。
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扉の前で、ふたりは手を取り合った。
「俺はエリスを信じてる。きっとどんな壁も一緒に超えられる」
「わたしも、リュカさんを信じてる」
ふたりは深呼吸をして扉を開く。
中は、分かれ道の迷路になっていた。
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アリアの声が響く。「この迷宮では、互いの声だけを頼りにゴールを目指してください」
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リュカとエリスは、それぞれの道を進みながら、チャットで励まし合う。
『エリス、そっちは行き止まり?』
『大丈夫、次は左に進んでみる!』
『焦らなくていいよ。一緒に頑張ろう』
何度も迷い、時にお互いの声が不安で揺れることもあった。
だが、リュカの「信じてる」という言葉が、エリスの背中を押してくれる。
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ついに二人は、迷宮の中心で再会する。
「やった、会えた……!」
エリスは嬉しさのあまり涙ぐむ。
リュカはエリスの手を優しく握り、「これからも絶対に、どんな時も一緒にいる」と約束した。
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二人はしばらく、再会の余韻に浸っていた。
エリスはリュカの手を握りしめたまま、目を潤ませながら言う。
「信じてくれて、ありがとう。私、初めて誰かを心から信じることができた気がする……」
リュカは照れくさそうに微笑んだ。
「俺もエリスを信じてよかった。もう一人じゃない、って思えた」
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試練の広間に、再びアリアが現れる。
「第二試練“信頼”も突破です。おめでとうございます。
おふたりの心がひとつになったとき、塔はさらなる高みへと導かれます」
塔の中心に新たな扉が現れる。その扉には「未来」と刻まれていた。
「第三試練は“未来”。ここから先は、ふたりが歩みたい未来を選び、力を合わせて道を切り拓いていく必要があります」
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扉を前に、リュカとエリスは顔を見合わせた。
「未来か……。現実も、ゲームの中も、これからは怖がらずに進んでみたい」
リュカが言うと、エリスもうなずいた。
「私も……リュカさんとなら、どこまででも進める気がする」
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そのまま扉を開けようとした瞬間、塔全体が激しく揺れた。
システムエラーの警告音が鳴り響く。
アリアの声が焦りを帯びる。
「想定外のエラーが発生しています! 現実世界とゲーム世界の境界が不安定になっています――」
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リュカとエリスは強い光に包まれ、意識を失いかける。
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遼はふと目を覚ますと、そこは見慣れた自分の部屋。
VRゴーグルを外すと、夜明け前の静寂が広がっていた。
(夢だったのか……?)
スマホには、エリスからのメッセージが届いていた。
『また、必ず会おうね。現実でも、ゲームでも。』
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遼はベッドの上で小さく笑い、
「未来は自分で決めていい――」と呟いた。
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翌朝、いつものように朝食の席につくと、妹の真琴が言った。
「兄ちゃん、今度の休日さ、どっか出かけようよ。
兄妹だけじゃなくて、友達も誘ってみたいな」
「……いいね。なんだか、みんなで新しいことに挑戦したい気分だ」
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大学でタクと再会し、
「なんかお前、最近本当に変わったな」と感心された。
遼は照れながら「これから、もっと自分を変えていきたい」と笑顔で答えた。
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夜。再びVRゴーグルを装着する。
ログインしたリュカを、エリスが広場で待っていた。
「リュカさん。次はどんな冒険が待ってるんだろうね」
「何があっても、絶対に一緒に進もう」
二人は新たな扉――「未来」へと歩み出した。
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