【第5話】運命の出会い
新しい朝。
遼は朝食のテーブルにつき、妹の真琴と静かな時間を過ごしていた。
真琴は珍しく口数が多かった。
「兄ちゃん、今日はゼミあるんでしょ? 最近、学校サボってない?」
「うん、大丈夫。ちゃんと行くよ」
自然な会話が、以前より少しだけ増えた気がする。
家族との距離も、ほんの少しずつ近づいているような気がして、遼は小さな安堵を覚えていた。
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大学の帰り道、遼はふとカフェに立ち寄った。
窓際の席でノートPCを開き、VRMMOの攻略サイトをチェックする。
昨夜の「リュカ=神対応」の話題は、依然として盛り上がっていた。
「やっぱ、ちょっと有名人みたいだな……」
他のプレイヤーの書き込みやイラストまでアップされている。
現実では目立たない自分が、仮想世界ではみんなの注目を集めている――
そんな不思議な気持ちを噛み締める。
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夕方。
部屋に戻った遼は、すぐにVRゴーグルを装着した。
《イモータル・ワールド・オンライン》へログインすると、
広場はまるでイベント会場のような賑わいだった。
チャットウィンドウには「神に会いたい!」と書き込むプレイヤーが溢れている。
リュカはそっとログイン通知をオフにして、こっそりギルドの集会所に向かった。
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その時だった。
画面の隅に、見覚えのないキャラクターからプライベートチャットが届く。
『初めまして。あなたが“神リュカ”さんですか? 一度お話できますか』
発信者の名は「エリス」。
プロフィールには“新人プレイヤー”としか書かれていない。
「なんだろう……」
不審に思いながらも、リュカは場所を指定して会うことにした。
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約束の場所――湖畔のベンチ。
そこに現れたのは、銀髪に青い瞳の少女型アバターだった。
どこか、AIのアリアを思わせる雰囲気がある。
「こんにちは、リュカさん。私、エリスといいます」
「初めまして。何か、困ったことでも?」
エリスは小さく首を振り、少しだけ顔を伏せた。
「いいえ。実は……私、現実世界でも、うまく人と関われなくて。
この世界なら変われるかもって思って、始めてみたんです」
その言葉に、リュカは自分自身のことを重ねた。
「そうなんだ。俺も、似たようなものだよ。ここでは、自分を変えたくて――」
エリスははにかみながら、ほんの少しだけ微笑んだ。
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ふたりは湖畔を歩きながら、ゲームのこと、現実のことを少しずつ話した。
エリスはどこか繊細で、でもまっすぐな目をしていた。
「もしよければ……また、ここで話してくれませんか」
その言葉が妙に嬉しくて、リュカは「もちろん」と答えた。
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その夜、ログアウトした遼の胸には、温かな余韻が残っていた。
(誰かとちゃんと向き合えた気がする。
……俺も、もう少し現実でも前を向けるかな)
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翌朝。
遼は大学に向かう途中、何度もスマホで「エリス」からのメッセージが届いていないかを確認していた。
だが、まだ新着はない。
どこか物足りない気持ちのまま講義を受ける。
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昼休み、タクがカフェテリアの席にやってきた。
「昨日、めっちゃ嬉しそうな顔してたぞ? 何かあったか?」
「いや、ちょっと……新しい友達ができてさ」
「ゲームの中か?」
遼は曖昧にうなずきながら、
(でも、ほんの少しだけ現実でも前向きになれてる気がする)と感じていた。
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放課後。妹の真琴が図書館で自習しているのを見かける。
普段は声をかけないのに、今日は自然と隣に座ってみた。
「何の勉強?」
「生物のレポート……。兄ちゃん、最近優しいね」
「そ、そうか?」
真琴がふっと笑う。
その穏やかな雰囲気に、遼の胸も温かくなる。
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夜。
再び《イモータル・ワールド・オンライン》にログインしたリュカの前に、エリスが待っていた。
「こんばんは、リュカさん。今日も……来てくれて、ありがとう」
「こちらこそ。昨日の話、すごく楽しかったから」
二人でフィールドを歩く。
エリスはゲームの中で少しずつ勇気を出し、ギルドにも加入してみたいと語りはじめた。
「人と関わるのって、まだちょっと怖いけど……リュカさんがいれば頑張れる気がします」
「俺も、エリスがいれば少しずつ変われるかも」
そんな会話が続いた。
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フィールドに現れる不穏な影。
突然「システムエラー」が表示され、広場全体が一瞬フリーズする。
アリアが現れ、
「リュカ様、重大なクエスト発生です。エリスさんと力を合わせて、システム異常の原因を調査してください」と告げる。
物語は新たな局面へと動き出していく――。
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アリアは静かに二人を見つめていた。
「エリスさんも、今回のクエストの重要な鍵です。あなたの中に眠る“本当の自分らしさ”を見つけてください」
エリスは驚きながらも、
「私……自分に自信なんてなくて。でも、リュカさんとなら頑張れるかもしれない」と小さく頷いた。
リュカは「大丈夫。俺も、最初は誰にも頼れなかった。でも、一緒ならきっと」と励ます。
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ふたりでバグエリアへ足を踏み入れる。
見たことのない風景、無数のエラーコード。
手探りで原因を探していくうち、エリスが突然つぶやく。
「もしかして、このエリア……私みたいな“孤独”や“不安”が集まってできてるのかな」
アリアは静かに微笑み、「その通りです」と告げる。
「ゲームのバグは、時にプレイヤーの“心の揺れ”にもリンクすることがあるのです」
リュカとエリスは互いに頷き合い、手を取り合って、深いバグの奥へと進んでいく。
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夜遅く、遼はログアウトして天井を見上げた。
(人は一人じゃ変われない。誰かと出会い、支え合うことで……現実も仮想も、少しずつ変わるのかもしれない)
目を閉じた遼の表情には、これまでにない確かな“自信”が灯っていた。
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