七味さんはかけたがる
ベル
第1話「隣の席のOLさんが、何にでも七味をかける件について」
会社の昼休み。俺はコンビニで買った弁当を机に広げ、ふう、と小さく息をついた。
隣の席のOLさん――通称「七味さん」も、静かに自分の弁当を広げている。
名前はたしか……えっと、佐原さん。
でも部署ではほとんどの人が彼女のことを「七味さん」と呼ぶ。もちろん、あだ名だ。
なぜかというと――彼女はどんな料理にも七味唐辛子をかけるからだ。
今日の彼女のランチは、和風ハンバーグ弁当。
「え、それにもかけるんですか?」
思わず声が出てしまった。
「うん」
佐原さんはクールな顔でうなずきながら、マイ七味を取り出した。
それは、市販のものでは見かけたことのない、小瓶に入ったこだわりの七味だった。
俺はその見慣れないラベルに目を奪われながら、つい口を開く。
「いつも、かけてますよね。七味」
「そうだね。だいたい、毎日」
「なんでそんなに七味が好きなんですか?」
彼女は七味をふりかけながら、小さく笑った気がした。
「なんでだろう。母親の影響かも。……子どもの頃から、七味の味がすると安心するんだよね」
七味で安心……?
俺の頭の中には、辛いもの=刺激というイメージしかないので、ちょっと意外だった。
「田中くんは、辛いの苦手そうだね」
「えっ、そんなこと……あります」
うっかり正直に答えてしまった。
佐原さんは特に何も言わず、淡々と七味のかかったハンバーグを口に運んだ。
その瞬間、ほんの少しだけ、彼女の表情がゆるんだ気がした。
ふわっと微笑んだような、気のせいだったような。
クールな彼女が、七味をかけた料理を食べるときだけ、ちょっと幸せそうな顔をする――
そんなことに気づいたのは、俺だけかもしれない。
その日を境に、俺は昼休みに彼女の食事が少し気になるようになってしまった。
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