第3話 天使雲界と天使の白館
五つ子の自己紹介が終わり、冷静になった俺は我に返る。
ベッドの上で正座をしていたが、ゆっくりと立ち上がり、グルリと周囲を見渡した。
壁が無い。正八角形の白い天井と床、八つの角に円柱形の柱が八本。中央に俺のベッドだけがポツンと一つ。
ベッドがある寝室、つまり建物の中という認識でいたが、いや、建物で間違いないが、壁が全く無いのだ。ネットで写真を見たことがあるが、まるでギリシャのパルテノン神殿のイメージ。
視界の奥は、遥か彼方まで一面の雲で覆われている。といっても、雨雲のような暗いイメージは全くなく、むしろ神々しいというか荘厳というか、青白かったりピンクがかったりととても明るい印象。
風通しは抜群だが、特に寒いと感じない。
飛行機に乗った時に感じる“浮いている感”もないのだが、景色から想像すれば、空中に浮いている施設と判断できる。
つまり、“天界に浮かぶ館”という表現が最も似つかわしい。
「ここって……」
「はい。この世界は『天使雲界』と呼ばれています。そして、この建物は『天使の白館』ですわ」
長女のイチノが即答した。
“ここはどこ?”に注意を奪われていたが、ふと自分の服装にも違和感を覚えた。
「へっ? ずぶ濡れのスーツは?」
視線を落としてみると、日本神話に登場するナンタラのミコトが着ていそうな上下ゆったりの白装束を着ていた。腰には柔道の黒帯っぽい紐。
なんだこれ? みたいな顔をしてイチノを見る。
「
「へぇぇー」
狩衣がどんなものか知らんが、平安時代の
「それはそうと……」
もう一度イチノを見る。
「はい」
落ち着いたスマイルを見せるイチノ。CA(キャビンアテンダント)みたいだ。
「普通、転生したら生まれ変わるよね? なんか、元のまんまじゃん?」
「はい。下界の理屈について詳しくは知りませんが……」
「なぁーに言ってんのよ! あのタイトルと美女のイラストでしょ、“ジャケ買い”させるのが目的に決まってんじゃん!」
ギャル天使こと、四女のシーちゃんがイチノを遮り、割って入ってきた。
「シークンさん、駄目ですよ。いつも本音を言っちゃダメって話してますわよね?」
イチノが口に手をやり、ホホホと作り笑いをする。
シーちゃんが、テヘっと、ベロを出す。
なんなんだ、コイツら。
「そうですわ、準様。私たち、準様の花嫁ですから、準様をなんとお呼びするのがいいですか?」
お姉様天使こと、リーダー役のイチノが続けた。
「おぉぉー、それいいね! 呼び方ねぇ」
準様? あなた? ダーリン? ジュンちゃん? ジュンジュン? やっぱ……。
「ジュン!」
急に女王様天使こと、次女のニッキィに呼び捨てにされた。
「あっ、それも悪くな……」
「ジュンちゃん!」
ギャル天使が叫ぶ。
「いやっ、それは……」
「キミ!」
ボーイッシュ天使こと五女のイツハが、俺を指差しながら口を開いた。
モジモジ天使こと、三女のミカは赤面しながら無言でモジモジ。かわいい……。
「そんな感じでお願いしますわ、準様」
イチノがこの話題を締めくくった。
「へぃ……」
どういうわけか、食い下がっても無駄っぽいと感じて、そのまま受け入れることにした。
とりあえずベッドの上に座り込み、
「というわけで……」
イチノが先に進めようとするので、慌てて遮る。
「ちょっ、待てって! とりあいず、ここはなんなん? 天使……」
「天使雲界ですわ」
「それっ、それってなにさ!? 周りに雲以外ないし、ここもなんか浮いてる感じだし。どこにも行けないじゃん! もしかして、俺飛べんの?」
「飛べるわけないじゃないの! 翼がないでしょうが!」
ツンと答える女王様。女王様はいつだって正しい。
「で、ここって異世界なわけなんスかね?」
なんか5対1の戦いに見えるが、負けずに続ける。って、あれっ? 5人とも俺の花嫁なんだが?
「ん~、異世界っていうかぁ~、現実世界にもちゃんと繋がってんのよねぇ~」
ギャルのノリ、嫌いじゃない。
「ここは現実世界と霊界の狭間。天空と大地の間に存在する別世界。そんなとこだよ」
五女のイツハがウインクした。
おぉー、お姉様キャラのCA対応もそそるが、ボーイッシュキャラのクールな対応も
モジ子さんは、相変わらずモジモジ。かわいい……。
「じゃ、俺って死んでんの? 生きてんの?」
「両方よ!」
女王様の回答。
「え~っと、もっと詳しくですね……」
「今のお姿は準様の魂です。ですが、肉体だけ誰にも触れられない場所に保管されていますわ」
「へっ? なにそれ? 俺って魂だけなん?」
「その通りですわ」
CAの微笑み。
「要するにぃ!」
ずっと右端で立ちッパだったピンクのギャル天使が、突如ベッドの脇に座って、俺の右腕にしがみついてきた。
お約束だが、ギャル子のビックな柔らかいものが俺の二の腕に当たる。
アカン! 刺激が強すぎる! そ、そんな、乙女たちの前で!
「こういうこと、ね!」
どゆこと?
「ちょっとウチのカラダ触ってみ! どこでもいいから、ね!」
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