十三日目 「わたしの恋人」(お題:牙)
彼女の、牙が好きだ。
それは犬歯というにはあまりにも大きすぎた。大きく、分厚く、鋭く、そして大雑把すぎた。それは、まさに牙だった——
ことの最中に、わたしは無意識のうちに「噛んで」とよく言っているらしい。
実際に彼女が噛むことはまれで、なぜならシーツが汚れてしまうからだった。
血で。
噛みどころが悪ければ(いや良ければ、なのか?)、シーツどころか部屋中にわたしの血が飛び散り、彼女はキャリーのように真っ赤に染まるだろう。
どこか、その光景を実際に作り出したいという気持がわたしにはあるらしい。それはわたしの世界の終わり、それから彼女の社会の終わりにしかならないというのに。
「また、変なこと考えてるでしょ」
上にいる彼女が首筋を甘噛みしてきて、わたしは喘ぐ。
空調の効いた部屋で、わたしたちは汗だくで睦み合っている。
彼女を抱きしめながら転がり、上下関係を逆転させると、わたしはただの前歯で彼女の肌に傷をつける。それから這うように彼女の唇まで辿って、舌を、それから牙を舐る。
そうか舌だったら——
わたしの考えが伝わったのか、同時に思いついたのか、彼女の牙がわたしの舌に突き刺さり、痛みと快楽に意識が遠のく。
そのまま舌を裂いてくれたらいいのに、と思いながら、絶対に彼女はそんなことはしないだろうともわかっていた。
ただ牙があるだけの、可愛らしい女性。
人前では絶対に笑わない、わたしの前だけで牙をむいてくれる、わたしの恋人。
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