七日目 「闇を憎む」(お題:あたらよ)


 僕を受け入れてくれた途端、彼女はとても素直になんでも要求に応えてくれた。あんな体勢もこんな体勢も、どこまでも僕の望みのままに。溜まりにたまった欲望は、まだまだ尽きることがない。

 ああ、夜がこのまま明けなければいいのに……。


      *


 取調室には容疑者の男と女性刑事が相対あいたいしている。男は嗚咽し、刑事はショートヘアをかきむしってから溜息をひとつ。

「急にいうことをきかなくなったから、頭にきて殺したってことでいいのね。そこは認めるのね。じゃあ、なんでバラバラにしたの?」

 男はぐずりながら、

「いうことを……きいてくれないから……」

 バン、と机を叩き、刑事は声を荒げる。「だからなんでバラバラにしたの⁉︎ 組み立てたらまたいうことをきくとでも思った? もうね、そういうのうんざりなんだよ、こっちは!」

 精神鑑定。異常。だから死刑にならない? だから更生の余地がある? ふざけるな。失われた命はもう戻らないし、新たな命が刈り取られるかもしれないんだぞ——!

 刑事は、しかし先のことを考えるよりも、まず現状をはっきりさせることが大切なのもわかっている。その先のことは、その先のこと。

 コンコン、とドアがノックされた。すっと入ってきたのは若手の刑事で、先輩へ耳打ちをした。

 それを聞いて、女性刑事はうなだれた。

 関節ごとにバラバラにされた傷に生活反応がなかったのはよかった。あるはずがないのだが、場合によっては……とも考えていた。

 だが。

 膣その他の擦過傷等にも、生活反応はなかったのだ。

 要するに、被害者は殺され、それから弄ばれ、バラバラにされた。

 いうことをきかなくなったとは、つまり死後硬直のことを指していたのだろう。

 刑事はバン、と机に両拳を叩きつけたあと、皮肉に口を歪めながら容疑者の男を見た。

 年齢不相応な童顔を苦痛に歪め、まるでこの世全てから非難されてるとでも訴えたげな目、噛まれた唇。

「おまえはバカだな」

 と、刑事はいった。

「あの涼しい部屋でも、三日も待てば、おまえのお人形さんは、また従順になったろうに……おまえのお仲間さんには何人か出会ったことがあるが、奴等にいわせれば『熟成』された肉のほうが旨いそうだ」

「ちょ、先輩! なに言いだしてんですか!」

 後輩が青ざめた顔で止めようとした。

 男は、きょとんとした顔だ。

 本当に知能が低いのかもしれない。

「あとは任せたわ」

 立ち上がり、後輩の肩を叩くと刑事は取調室を後にした。

 ペタペタとスニーカーがリノリウムに張り付く音。かけられる声も無視して、刑事は署内を歩く。

 とにかく外へ、外へ出て新鮮な空気を吸いたかった。

 何もかもうんざりだった。

 汚されることなく殺されたのは、もしかしたら救いであるかもしれない。しかし命を断たれてなお陵辱されるのと、どちらがより幸福か?

 そんなことは当人にだってわからないだろうし、まして他人には絶対にわからない。いや血を分けた肉親だって、わかりっこないだろう。

 闇はどこまでいっても闇だ。

 真実を、いや事実を究明したところで明けたりは、しない。

 闇が、憎い。

 外は明るく、清々しかった。

 刑事は行くアテもなく、そのまま歩き出した。


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