第18話:反撃の狼煙(お題18日目:交換所)

 ウィルソンの協力を得られなかったことに、船に残っていたレジスタンスの仲間達は明らかに落胆の色を隠せなかった。

「天才軍師についてもらえたら、俺達にも勝ち目が見えてくるのに」

 誰かが皆の気持ちを代表して声をあげると、マギーが嘆息して言葉を返した。

「それを今のヴィフレストの軍師は危惧してたんだよ。竜族と、ウィルソン・ガルフォードだけは、向こうに渡すなって……」

 そこまで言ったところで、少女は思い出したようにはっと顔を上げる。

「そいつ言ってた! ガルフォードを連行するって!」

「兄さんを!?」

 たちまちモリエールがさっと青ざめ、口元に拳を当てる。

「そうね、竜族の聖域だけではなくて、ハルドレストにも兵を送り込んだ可能性はありますね。砦にヴァーリ本人が乗り込んできたくらい、相手はわたし達を潰そうと躍起になっているのだから」

「モリー!」

 モリエールの考えがそこに至るのを待っていたかのように、街へ出ていた仲間が、焦った様子で駆け戻ってきた。バックパックにあった物資や金貨を交換所に持ち込んで、武器を得てきたのだ。長剣や、ゼファー向きの短剣、カラジュが扱えそうな槍斧ハルバードを抱えている。

「交換所を出たところでヴィフレスト兵を見かけた。小隊程度だが、裏通りへ向かっていた」

 ゼファー達は一様に顔を見合わせる。マギーの証言とモリエールの予想が当たったに違いない。たちまちモリエールは動揺に襲われて、言葉を失ってしまう。軍師の指示をもらえずに、レジスタンスの戦士達が狼狽していると。

「ウィルを助けに行こう」

 きっぱりと言い切ったのは、ゼファーだった。交換所から来た新品の短剣を手に取り、腰にたばさむ。

「カラジュとマギーが、モリーを守って。アバロンはレジスタンスの皆と一緒に、街に他の兵が潜んでいないか確認を」

「アタシを頼る訳?」

「君がもう、ぼくらを裏切る理由が無い」

 あまりにも真っ直ぐな信頼を寄せられて、マギーが心底戸惑った表情を見せる。だが彼女も、若くしてスパイとして修羅場を渡ってきたのだろう。腹を括るのは早かった。

「確かに、少人数相手なら、この腕力馬鹿よりアタシ達身軽な連中の方が、敵を撹乱しやすいからね」

「てめえ何気にディスってんじゃねえよ。オレ様も役に立つところは見せるからな」

 マギーとカラジュが軽口を叩き合いながら、それぞれに見合った武器を取る。

「私は空から様子を見守りましょう」

 アバロンが翼を広げて、暮れなずむ空へと舞い上がる。モリエールがそれを見上げ、気力を取り戻したように表情を引き締めて、ゼファー達を振り返る。

「お願いします、皆さん。どうか兄さんをヴィフレストに渡さないよう、守ってください」

 誰もが拳を掲げて応える。鬨の声こそあげなかったが、反撃の狼煙が上がるには充分だった。

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