第20話「姫様、村へ再来!? 議会とロイヤルの微妙な距離」
「――王都より使者が参っております!」
門番の報告に、集会所の空気がピンと張り詰めた。
「まさか……」
俺が顔を上げると、ティナとアリシアも硬い表情で頷いた。
「はい、恐らく――“姫様”です」
■召喚から一年、ふたたびの対面
フェルネ村に足を踏み入れた彼女は、誰よりも華やかで、そして誇り高かった。
「久しぶりね、レオン・ミナト。ずいぶんと骨のある領主になったじゃない」
リリア=エル=サリューゼ王女。俺をこの世界に“Excelスキル持ち”で召喚した本人だ。
その言葉に、俺は深々と頭を下げる。
「お久しぶりです、姫様。Excelの方は……まだ苦手ですか?」
「……ええ、VLOOKUPが何度やっても分からないのよ」
「それはもう、XLOOKUPに移行していい時代です」
「あなたに言われると、ちょっと悔しいわね」
■王女の目的は“監査”だった
表向きは“視察”。だが実際には、フェルネ村の急成長に対する「王都側の監査」だった。
村が独自の税制を導入したこと
議会を設立し、村民による自治を開始したこと
村の経済が王都と競合し始めたこと
「要するに、“このまま放っておいていいのか”ってことですね?」
「ええ。あなたのやっていることは、間違いなく成果を上げている。でも、それは“王国法”の想定を超えているの」
リリア姫は真っ直ぐに俺を見る。
「私はあなたに、村を“帝都管轄下”の特別経済区とする案を持ち帰りたい」
「つまり、王都の保護と管理下に置くと?」
「そういうこと」
■村議会、揺れる
この報せに、議会は揺れた。
「王都に保護されるのはありがたい話だが、自由を失うことにもなりかねん」
「税制や制度が“上”から変更される可能性もある」
「そもそも、議会の意味がなくなるのでは?」
ティナが口火を切り、アリシアが冷静に財務への影響を分析し、サムが“商人の自立”について訴える。
俺は、一言も口を挟まなかった。
リーダーとしてでしゃばるのではなく、民意がどう動くかを見たかったからだ。
■姫と二人きりの夜
その日の夜、王女と二人、村の高台に並んで腰掛けた。
「こんなに星が見えるのね、この村」
「Excelの関数もきれいに動きますよ、空気が澄んでて」
「そういうことじゃないわ」
「知ってます」
しばらく、無言。
やがて彼女がぽつりと呟く。
「……私、あのとき“あなたを選んだ”のが正しかったのか、不安になる時があるの」
「それはこっちの台詞ですって。突然召喚されて“Excelで国を救え”とか言われた俺の気持ち、考えてくださいよ」
「ふふ……」
俺たちはしばらく笑った。
「レオン。あなたに一つだけ、問いかけるわ」
彼女の横顔は、王女としてではなく、ただの一人の人間としてのものだった。
「“民意”と“秩序”、どちらを優先する?」
俺は迷わず答えた。
「Excelです」
「……ふざけないで」
「民意のExcelファイルに、秩序というパスワードをかけるだけです。
外せば自由になるし、かけていれば安心できる。必要なのは両立の仕組みです」
彼女はしばらく沈黙したのち、頷いた。
「――やっぱり、あなたで良かったわ」
■議会の決定
数日後、フェルネ村議会は結論を出した。
「我々は、王都との友好関係を維持しつつ、独立自治を継続する。
ただし、“帝都特例協定”の締結には応じる」
つまり、王都の保護は受けず、技術や文化の交流・災害時の支援体制など“緩やかな提携”を選んだのだ。
この結論に、リリア姫は静かに微笑んだ。
「あなたたちの村は……私が思っていたよりも、ずっと先を見ていたのね」
■姫様の“置き土産”
帰り際、姫が一冊のファイルを手渡してきた。
「これは……?」
「“Excelで管理する国政運営フォーマット”よ。
あなたの村が成功したら、王都もそれを取り入れようと思って」
「まさか……王国全体に?」
「あなたのExcel脳、王国に感染拡大中です」
ウイルス扱いかよ。
■変わる時代、変わらない想い
姫様が帰ったあと、俺は高台に立って村を見下ろした。
家々の灯り。村民たちの笑い声。
子どもたちの騒ぎ声。パンの焼ける匂い。
この場所は、俺が“居場所”を作ろうと誓った場所だ。
Excelで、仕組みを作り、道を作り、人の輪を作った。
それはまだ完成ではないけど――確かに動き始めている。
「姫様、また来てくださいね。今度はXLOOKUPの講習付きで!」
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