第18話「税制改革と反発の声!? 村の未来をかけた“公聴会”」

「フェルネ村に、“税金”を導入したいと思います」


そう告げた瞬間、集会所が水を打ったように静まりかえった。


レオン・ミナト、異世界領主歴11か月。

ついに、“避けては通れぬ壁”と向き合う時が来た。


■きっかけは、村の“成長”

村に起業者が増え、交易も広がり、教育や医療体制も整いはじめていた。


だが、その成長には「運営資金」が必要だった。


道を整備すれば石材と人足代がかかる。

診療所の薬は交易商から買うしかない。

村人が使う井戸や共同倉庫、街灯、役所──

全部、金がかかる。


「Excel脳でなんとかならないの?」


「金は足し算と引き算しかしてくれないんだよ!」


ティナとアリシアの協力のもと、俺は村の収支と未来計画を“可視化”した。


【フェルネ村 行政支出試算(来期)】


道路維持費:5,000フェル


医療補助:3,200フェル


教育事業:4,500フェル


防衛費:2,800フェル


商業促進(見本市・起業支援):3,000フェル


緊急予備費:2,000フェル


合計支出:20,500フェル


「今までの資金は、交易の手数料や寄付で賄ってきたが……正直、限界だ」


「だから“税”なんですね」


「そう。村全体の安定のために、“みんなで少しずつ出し合う”仕組みが必要だ」


ただし、異世界の住民にとって“税”はイメージが悪い。

搾取、横領、無駄遣い──過去の領主たちがやらかした“前科”があるからだ。


だから俺は、“公開・説明・納得”を徹底することにした。


■Excelで見せる税制度:三つの柱

① 誰がどれだけ払うか、分かりやすく

→ 村民を所得ランクに分け、段階的な“定額+比例”制に。


② 何に使うか、全部見せる

→ 支出明細を村の掲示板にExcel形式で毎月公開。


③ 意見は全て反映する

→ 制度導入前に、全村民対象の“公聴会”を実施。


アリシアが驚いた顔で聞いた。


「そんなに公開したら、批判されませんか?」


「批判されるのは“見せてないから”なんだよ。

 “見せて納得してもらう”、それが民主主義だ」


「“領主制”なんですけど……」


「Excel民主主義ってことで」


■公聴会、開幕!

木曜午後、村の広場に百人以上が集まった。

手作りの資料とスライド。読みやすくしたExcel表。

俺のプレゼンは、30分で終えた。


「以上、税制導入の目的と仕組み、そして“誰も取り残さないための工夫”でした」


質問タイムに入り、最初に手を挙げたのは、石職人のフレッド。


「つまり、わしらが“稼げば稼ぐほど”多く払うってことかい?」


「その通りです。ただし、一定の上限があります。

 また、村事業に協力した者には“減税措置”も用意しています」


「ふむ……」


次に手を挙げたのは、小麦農家のサラ。


「家族が多い場合、負担が重くならないか心配です」


「子どもが3人以上いる家庭は、基本税率を半分にします。教育支援の一環です」


「なるほど……」


その後も質問が続いたが、意見は“慎重ながら肯定的”だった。


■一人の男の、怒り

全体が和やかになってきたころ、

最後に一人、腕を組んだまま沈黙していた男が立ち上がった。


村の漁師・ガランだ。


「レオン様。あんたの考えは、分かる」


「でもな、“税”は一度導入したら、後には引けねぇ。

 いずれ、次の領主が“好き勝手に増やす”かもしれねぇ」


その言葉に、空気が変わった。


ガランの言ってることは、まっとうだ。

人は変わる。制度も劣化する。

Excelでは“未来の信用”までは保証できない。


だから俺は、深く頭を下げた。


「……だから、“仕組み”を残します」


「仕組み?」


「領主が勝手に税率を変えられないよう、“村民議決制”を導入します」


「え?」


「税率の変更、特別予算の使用、大規模事業の決定──

 そのすべてを、村民代表会議で決定する仕組みです」


村人たちがざわついた。


「つまり……我々が、領主の“上”に立つ?」


「いや、そうじゃない。“隣に立つ”んだ」


「レオン様……!」


■制度は“人”が守る

その夜。俺は一人でノートにこう記した。


■税制度導入のポイント

・全支出・収入をExcelで開示

・制度変更は議決制に

・議会メンバーは村民から選出(任期2年)

・“信頼される仕組み”をつくる


フェルネ村はまた一歩、前へ進んだ。

制度は完成ではない。

だからこそ、Excelで“見える化”して、みんなで手を入れられるようにする。


次代のために、“壊れにくい仕組み”を作る。

それが、俺のやるべき仕事だ。

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